表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

131/183

最終話 宴のとき

「マサキ! キエル! 死んじゃいないだろうねっ!?」


 ランタンを掲げたライラさんが、疲労からへたりこんでいる俺たちに気づき声をあげた。

 俺はライラさんに無事を知らせるため手を振り、返事をしようとしたところで、


「ライラさ――」

「マサキ!」

「おわぁ!?」


 ロザミィさんがものっ凄い勢いで抱き着いてきたじゃありませんか。

 不意打ちだったこともあり、支えきれず石畳に頭をごっつんこ。

 

「いつつつ……」

「マサキ! マサキ! よかったぁ……よかったよぉ……」

「ロザミィさん……」

「心配……したんだからね」

「ははは、すみません」


 テイクダウンからマウントポジションに移行したロザミィさんにされるがままにしていると、そこになぜか頬を膨らませたキエルさんが割って入ってきた。

 俺たちの間に入りたくなったのかな?


「ロザミィ、そろそろマサキさまから離れてください」

「き、キエル、あなたも無事だったのね」

「うふふ。ええ、マサキさまのお陰で」


 キエルさんはそう言うと、意味ありげな笑みを浮かべて俺の手を取り、たちあがらせる。


「っ……」

「うふふ……」


 感動の再会のはずが、なんでガンつけあってるんだろね?

 女性の友情は俺には難しすぎるや。

ぶつかり合う視線から火花を散らすふたりからそっと離れた俺は、体を起こしてライラさんのもとに向かった。


「マサキ……こ、これはまさか盟主かい?」


 上下に斬り分けられた盟主コボルトを発見したライラさんが、押し殺した声で訊いてくる。

 もうピクピクしていらっしゃる盟主コボルトを見て、次に俺を見て、また盟主コボルトを見ていた。


「こいつを……マサキとキエルのふたりで?」


 ライラさんがマジな顔して訊いてきた。

 二度見しちゃうぐらいマジだ。


「いやー……なんとか勝てました」

「…………」


 ライラさんはしばらく黙り込んだあと、


「大したもんさね」


 と言って俺の首に腕を回し、自分の胸に抱き寄せた。

 ほっぺにでっかくて柔らかい感触が伝わってくる。


 慌てて頭を離そうとするもライラさんのホールドはすげー強くて、『柔らかいなにか』から逃れることはできなかった。


「まったく、心配して損したじゃないのさ。どうしてくれるんだい?」

「ははは……すみません」

「いいってことさ。こうしてふたりとも無事だったんだからね」

「それはそうと、ライラさんたちはどうしてここに?」


 ライラさんの力強いホールド受けながら質問する。


「ダンジョンの裂け目から地上に出たあとアタイたちは急いでギルドに戻ってさ、討伐隊を組んだんだよ。マサキたちを助けるためにね」

「討伐隊……ですか?」

「ああ。ほら、見てみなよ。悪そうな連中がたくさんいるだろう?」


 ライラさんは茶化したように言い、後ろを振り返る。

 そこにはマッチョな冒険者の皆さま方が、ダース単位でいらっしゃった。

 まるでギルドに所属しているすべての冒険者が集まったんじゃないかってぐらいの大所帯だった。


「よお、マサキの兄さん。しぶとく生き残ってるどころか、盟主をぶっ殺しちまうなんてよ、凄いじゃないか」


 冒険者の集団の先頭にいた『金剛の盾』のリーダー、ドッカーさんが感心したように言う。


「ドッカーさん……わざわざ俺のために戻ってきてくれてありがとうございます」

「気にしないでくれ。元々『盟主』はギルドから危険指定されてるモンスターだからな。俺達のギルドじゃ(こっち)じゃ、発見次第討伐に行くのも規約に含まれてるんだ。まあ、ギルドからの報奨金に加え、そこの――」


 ドッカーさんがライラを視線で指し示し、続ける。


「べっぴんさんがけっこーな小遣いくれるって言うからよ。それに、マサキの兄さんたちを見つけたら酒に付き合ってくれるっていうじゃないか。これで行かなきゃ男じゃないだろ? そんなわけで……ダンジョン(ここ)に舞い戻って来たってわけだ」


「そんなことが……。あ、でもここだけの話、ライラさんのお酒に付き合うのって、けっこーしんどいですよ?」


 俺は小声でドッカーさんにご忠告。

 ドッカーさんは、


「酒が飲める女なんて最高じゃないか。いまから楽しみだぜ」


 と笑っていた。


「でも生きててくれて良かった。マサキの兄さんにはでっかい『借り』があるからな。冒険者は借りを絶対に返さなきゃいけない。死なれちまってたら寝覚めが悪くなるところだったぜ」

「すみません。そしてありがとうございます」

「よせやい。男がそう簡単に礼を言うもんじゃないぜ。見くびられちまうからな。それより……」


 ドッカーさんは目を細め、周囲を警戒する。


「コボルト共が静かだな。盟主を倒されて怖気づいたか?」


 他の冒険者の皆さま方も、さり気なく隊列を組んで臨戦態勢だった。

 俺は自分の頭をポリポリ。


「ああ、それなんですけど、」

「ん? どうしたマサキの兄さん」

「えーっと、俺とキエルさんで、ほとんどのコボルトやっつけちゃったと思います」


俺の言葉で、周囲に沈黙が降り立った。

誰も彼もがフリーズ。俺、いつの間に時間を止めれるようになったんだろ?


「……………………はぁ?」


たっぷり20秒ぐらい数えたあと、ドッカーさんが再起動。


「マサキの兄さん、なに言ってんだ?」


 ドッカーさんが俺を可哀想な者を見る目で俺を見ている。

 ダンジョンに取り残され、頭がパッパラパーにでもなっちゃったと心配されている感じだ。

「マサキ、アタイたちに説明しとくれ」

「おっす」


 それなりのお付き合い期間があるライラさんは違った。

 怪訝な顔をしながらも俺に説明を求めてきた。


「えーっとですね、まず――」

「マサキさま、説明するよりも直接見てもらったほうが良いのではないでしょうか?」

「確かにそうですね。ライラさん、あっちに広い空間が――」

「にゃんてこったーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」


 俺がみんなをコボルトたちの旧寝床に案内する前に、周囲を探索していたらしきミャーちゃんが先に大発見。

 全身を使って驚いていた。


「ミャムミャム、どうしたんだいっ!?」

「ライラ見るにゃ! コボルトがみんな真っ黒コゲになってるにゃ!!」

「なんだって……?」


 ライラさんを先頭に、冒険者の皆さま方が粉塵爆破かました現場を視察。

 全員が言葉を失っていた。


「マサキ、キエル、これもアンタたちがやったのかい?」


 ライラさんが訊いてくる。

 さーて、どうやって誤魔化そうかな。

 ガスが漏れてて引火してたことにでもしようかな。

 そう悩んでいる横で、


「そうです! マサキさまが倒されました!」


 キエルさんが嬉しそうにカミングアウト。

 この場にいる全員の視線を一身に浴びる中、俺は、


「わーお」


 と言って苦笑いするのでした。



 ◇◆◇◆◇



 その後、過剰人員を以ってしてダンジョンの探索が行われた。

 罠もなく、コボルトの脅威も去った今、探索はベーリーイージーモードで行われ、まる1日かけて隅々まで調べられた。


 探索の結果、出てきた『お宝(魔法書や古代の貨幣)』はみんな均等に分配。

 人数が多かった分、ひとりひとりの稼ぎとしてはそれほどでもなかったけれど、そこはコボルトの討伐証明である部位を持ち帰り換金することによって、トータルでは「まあ、悪くはないな(ドッカー談)」と言えるぐらいにはなったそうだ。


 ただ、俺たちはというと――


「これが盟主コボルト討伐の報奨金です」


 冒険者ギルド、獅子の牙の受付嬢から金貨の詰まった革袋を頂戴する。

 『盟主』と名のつくモンスターの脅威度はかなり高いそう(群れを巨大化しちゃうから)で、倒したものにはかなりの額が報奨として支払われるそうだ。

 革袋の口を開き、中身を確認。


「おおっ! めっちゃ入ってる」


 金貨がぎっしりずっしりな革袋。

 さすがは交易で栄えている街の冒険者ギルドだ。

 交易の障害となるモンスター討伐への支払いっぷりがパないぜ。

 しかも、俺の背には盟主コボルトが持っていた『魔剣』がぶら下がっている。

 半永久的に持続する『古代の魔法』が付与された大剣は、盟主を打ち倒した俺に所有権があるらしく、その場の流れで俺が背負っておくこととなった。


 ドッカーさんを筆頭に他の冒険者や特にライラさんが羨ましそうに見ていたけれど、敵が持っていたマジックアイテムは倒した者が所有者となるのが『冒険者の流儀』らしい。

 だもんだから、満場一致でひとまず俺が預かることになったのだ。


「ふぅ……。やっとぜんぶの手続きが終わりましたねー」

「お疲れ様です、マサキさま」

「マサキ、疲れてるのにゴメンね」

「おにーさんおつにゃー」」

「おつかれさんマサキ。アタイが代わってやってもよかったんだけどね、盟主を倒したのはマサキだから、マサキが説明する方がよかったのさ」

「大丈夫です。状況の説明は当事者の義務でもありますからね。それよりライラさん、このあとはどうします? できれば宿に戻って寝たいなー……なんて?」


 陽はすっかり暮れ、夜空にはきれーなお星様が。

 ダンジョンでの疲労が抜けきらないから、できれば半日ぐらい寝て置きたい。

 しかし、そんな俺のささやかな願いは、

「なに言ってるのさマサキ、」


 ライラさんの腕が俺の首に回される。


「え? え?」

「朝まで飲むよ!! さあみんな、酒場に行こうじゃないかっ」

「まったく、姉さんは……」

「マサキさま大丈夫ですか? お辛いならわたしの膝で寝てくださいね」

「やったーーーーー!! お酒にゃーーーーー!!!」


 俺はライラさんにずるずると引きずられながら、


「わーお」


 とこぼし、酒場まで連行されるのでした。

昨日、普通のおっさん4巻が発売されました。

4巻まで出せたのもみなさんのおかげです。

ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ