第12話 その名は近江正樹! チート・おっさん見参
転移すると、ジャイアント・ビーの巣が目のまえにあった。
ジャイアント・ビーの多くは巣に戻っているのか、飛んでいる個体は見当たらない。
何匹かが巣の外側にへばりついているだけだった。
「やるよリリアちゃん」
「うん!」
「喰らえーい!」
俺はマグナムブラスターを構え、トリガーを引く。
噴射口から殺虫剤が吹きだし、巣にへばりついていた一匹に命中する。
「どうだ!?」
殺虫剤を浴びたジャイアント・ビーは、苦しそうにもがいたあと、
『ギギギ―――……ギギ…………』
あっさりと地面に落ちた。
「お兄ちゃんやったよ!」
動かなくなったジャイアント・ビーを指さしたリリアちゃんが、嬉しそうな声をあげる。
マグナムブラスターの効果はばつぐんだ。
「いける! いけるぞ!! なら――」
俺はポケットから、くん蒸式殺虫剤『バル3』を取り出しフタを開け、ヘッドをこすって火をおこす。
すぐに勢いよく煙が吹き出しはじめ、俺はそれを確認してからバル3を握ったまま振りかぶり、
「でやーーー!!」
巣穴へと投げ込んだ。
隣ではリリアちゃんもバル3に火をつけ、次々と俺に手渡してくる。
「はい、お兄ちゃん」
「ありがと! ほいやーーー!!」
「お兄ちゃん、はいっ! もーいっこ!」
「どりゃーーー!!」
バル3を巣穴に何個も投げ込んだからか、巣全体からもくもくと煙が立ちのぼりはじめた。
これで全滅してくれれば楽なんだけど……やっぱそう上手くはいかないか。
「お兄ちゃん、ハチが出てきたよ!」
バル3の煙から逃げるようにして、巣穴からジャイアント・ビーが我先にととび出してくる。
「よーし! やっつけるぞリリアちゃん!」
「うん! えーーーいっ!!」
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
俺とリリアちゃんはマグナムブラスターを構え、同時にトリガーを引いた。
殺虫剤が白い軌跡を描きながら、ジャイアント・ビーを撃ち落としていく。
「お兄ちゃん、ぶしゅーってしなくなった!」
「それはもう空だ。これを使って!」
「うん!」
俺は新しいマグナムブラスターを背負いカバンから取り出し、リリアちゃんに渡す。
すぐに使えるよう、包装は外し済みだ。
受け取ったリリアちゃんはすぐにトリガーを引き、沸き出てきたジャイアント・ビーを射ち落す。
「お兄ちゃん、またなくなった!」
「ほいさ、これを使って」
「うん! やーーーー!!」
二丁のマグナムブラスターを巧みに操るリリアちゃんに隙はない。
俺なんかよりも、よっぽど上手く当ててるぐらいだ。
しかも、一匹射ち落すたんびに反応速度が速くなっているような気がする。
「えーい! やー! このー!」
一瞬で3匹を射ち落すリリアちゃん。
これはひょっとしてアレかな?
戦闘中にレベルアップしてるってやつなのかな?
あいにくとステータスを確認することはできないから、知るすべがないけどね。
「こりゃあ、大人として負けてらんないな」
俺もマグナムブラスターを撃ち、ジャイアント・ビーを倒していく。
ジャイアント・ビーはバル3の煙で弱っているのか、ちょっと吹きかけるだけですぐに死んでいった。
「えーい! こっちくるなー! たー!」
「これはリリアちゃんの分! これもリリアちゃんの分! これだってリリアちゃんの分!」
俺はリリアちゃんと背中を合わせて死角を消し、向かってくるジャイアント・ビーを撃ち落としていく。
「でけでっで、でーんでーんでーん、でんでんっ、でーんでーんでーん♪」
興奮状態のリリアちゃんは、マグナムブラスターの練習中に流していた曲を口ずさんでいる。
怪獣と戦うロボット映画のテーマソングで、これを聴くとすげーテンションがあがる、俺のお気に入りの曲だ。
この姿を見る限り、どうやらリリアちゃんも気に入ったようだった。
そして、総額10万円弱かかった殺虫剤のうち、 3万円弱ぐらいを消費したころ、向かってくるジャイアント・ビーはいなくなっていた。
「けほっ、けほっ……お兄ちゃん、ハチぜんぶやっつけたかな?」
空中に殺虫剤がばら撒かれてるからか、リリアちゃんが少しだけ咳き込みながら聞いてきた。
「……そうみたいだね」
しんと静まり返った森は、物音ひとつしない。
俺はリリアちゃんの喉が痛まないよう、持ってきていたマスクをつけ、再びあたりを見回す。
周囲には、脚を折りたたんでひっくり返ったジャイアント・ビーが溢れている。
動いているヤツは……もう1匹もいない。
あれだけの数がいたのに……1匹も、だ。
「……どうしたジャイアント・ビー!! もう終わりか!?」
腹の底から、フツフツと怒りがこみ上げてくる。
俺は力いっぱい拳をにぎり、叫んだ。
「どうした!? まだ3万円弱しか使ってないぞ! ガッツを見せろ! かかってこいよ!」
マグナムブラスターの包装はぜんぶ取っちゃってんだ。もう返品はできない。
それなのに……ジャイアント・ビーは3万円弱で全滅したのだ。
これじゃあ7万円弱の赤字じゃないかっ!
7万円弱あったら最新のゲーム機がソフト付きで買えるし、品プリにだって泊まれる。それに沖縄旅行にもいけるんだぞ!
ふざけるなっ!
「これで終わりだなんて、俺は……俺は認めないぞ!」
懐へのダメージが、そっくりそのまま怒りへと変わる。
そんな怒れる俺を正気に戻したのは、リリアちゃんだった。
「お兄ちゃん、」
リリアちゃんは、そっと俺の手をにぎり、
「お家に帰ろ」
優しく微笑む。
その天使のよう笑顔に魅せられたおれは、「うん」と言って頷き、仲良く手を繋いでジャイアント・ビーの巣をあとにするのだった。




