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第36話 予期せぬ再会

【前回までのあらすじ】

マサキたちはコボルトが住みついた古代遺跡に挑むのだった

「いまの鳴き声は……コボルトですよね? いままでとは鳴き方がちょっと違う気もしますけど……」


 俺は誰ともなくそう訊いてみる。

 ここに来るまでに戦ってきたコボルトに比べて、鳴き声に『凄味』と『力強さ』を感じたからだ。

 隣に腰を降ろしていたキエルさんが、きゅっと俺の服を掴む。


「落ち着きなマサキ。雑魚とは『格』が違うコボルトがいるんだろうさ」

「か、『格』ですか……?」


 いつも口元に笑みを湛え余裕を感じさせていたライラさんの表情が、少しばかり硬い。


「ハイ・コボルト程度なら大したことないんだけどね。コボルトキングや、万が一『盟主』が出てきたらやっかいだね」

「ライラ姉さん、どうするの?」

「さて、どうしたもんかね」


 ライラさんが顎に手をあて考え込む。

 

「ミャーちゃんミャーちゃん、」

「ん、なんにゃ?」


 俺はミャーちゃんを手招きし、小声でご質問。


「その、『盟主』ってなんですか?」

「んとね、『めーしゅ』はね、すっごく強いコボルトのことにゃん」


 これまたざっくりした答えが返ってきちゃったぞ。

 でもシンプルであるが故に理解できた。


「ミャムミャム、あのうるさいヤツ(コボルト)とどれぐらい距離が離れてるかわかるかい?」

「んとねー……近くもとーくもない感じかにゃー」

「……そうかい。念のため場所を変えるよ。みんな支度しとくれ」

「わかったわ」

「りょーかいです」


 俺たちはわたわたと広げた荷物を片付ける。

 といっても、出したものをバッグにしまうだけだけどね。


「お待たせし――」


 お待たせしました。そう言おうとしたタイミングで――


『ワオオオォォォンンッ!!』


 再び力強い遠吠えが聞こえた。

 さっきよりも近い。


「姉さん、なんかあたしたちに向かってきてない?」

「まさか見つかった? いや、それにしちゃ……」

「みなさん、少し静かにしていただけますか」

「キエルさん?」

「コボルトではない、何者かの『音』が聞こえます」


 キエルさんがそう言い、みんな黙り込む。

 エルフであるキエルの耳は高性能なので、俺やロザミィさんに聞こえない音でも聞くことができるのだ。

 そしてそれはミャーちゃんも一緒だ。

 しーんとするなから、キエルさんとミャーちゃんの耳だけがピクピクと動く。


「……戦いの音が聞こえます」

「…………うん。キエルのゆーとーりにゃ。やっぱり誰か戦ってるのにゃ」

「戦ってる? 古代遺跡ここでかい?」

「うん。さっきのうるさいコボルトはそいつらを追いかけてるみたいなんだにゃ」

「待ってよミャムミャム。それじゃあたしたちの他にもこの古代遺跡を見つけたひとがいるってこと? 入口は入念に隠したはずよ」

「別の入口があった、その可能性はないですかね?」

「マサキの言う通りかもしれないね。アタイたちが見つけたのとは、別の入口があったのかもしれない」

「そんな……」


 ライラさんの言葉にロザミィさんはショックを受けた様子。

 古代遺跡の第一発見者なうえ、一番乗りのつもりで挑んでいたんだからガックリきちゃうのも仕方ないよね。


「こっちに来るにゃ」


 ミャーちゃんが腰からショートソードを抜き、逆手に構える。


「ロザミィとキエルはマサキの後ろにいな。マサキ、危なくなったらアタシが殿を務めるから、みんなを連れて逃げるんだよ」

「冗談はよしてください。逃げるときはライラさんも一緒ですよ。大丈夫、いざとなったら俺が何とかしますから」

「ふーん。ずいぶんとカッコイイこと言うんだね。ゲーツにも見習わせたいよ」

「あたしはどっちかと言うとゴドジのアホウに見習わせたいわね」

「みなさん、きますよ」


 キエルさんが緊張したように言う。

 直後、俺たちがいる場所から50メートルほど先、T字路になっている通路の右側から冒険者らしき一団が飛び出してきた。


「なっ!? あ、あんたたちは――」


 通路からとび出してきた先頭の冒険者が、俺たちを見て眼を見開く。

 重装備に身を包んだこの青年はたしか……。

 

「ロザミィ、あの男誰だっけ? アタイはどーもひとの顔と名前を覚えるのが苦手でねぇ」

「まったく姉さんは……。あのひとたちはプリーデンの冒険者ギルドにいたドッカーよ。ほら、姉さんが蹴っ飛ばしたヤツの仲間の」

「ああ、そういやそうだったね」


 まさかの再会相手、それは6人組冒険者パーティー『金剛の盾』のみなさんだった。

 リーダーのドッカーさんと盗賊の方が、それぞれ負傷したらしき仲間を背負い、息を切らしながらこちらに向かって駆けてくる。

 その後ろから、うじゃうじゃと数えるのもバカらしい数のコボルトがドッカーさんたちを追いかけていた。


「久しぶりじゃないかアンタたち。こんなところで会うなんて奇遇だねぇ」

「まったくだ。べっぴんさんたちとの再会を喜びたいところではあるんだが、生憎と厄介なやつらに追いかけられててな」


 ライラさんとドッカーさんが軽口を叩き合っちゃいるけど、会話ほど状況に余裕はない。

 俺たちは回れ右をして、『金剛の盾』のみなさんと一緒にコボルトの大群から逃げはじめた。


「こ、こんなにコボルトがいたなんて……」

「はぁっ……はぁっ……悪いな兄さん。巻き込んじまってよ」


 俺と並んで走るドッカーさんが謝ってきた。


「なんでこんなことになったんです?」

「……ちょいとドジ踏んじまってな。メスのコボルトをぶっ殺したら、どうもそいつが『盟主』のコレ(・・)だったみたいなんだわ」


 ドッカーさんが唇をチュッパチュッパ動かす。


「コレ?」

「なんだ、お前いい歳して分からないのか? 女ってことだよ」

「ああ、なるほど」


 後ろをふり返ると、一匹だけ大きなコボルトが目を血走らせ向かってきている。

 通路の天井ギリギリの大きさで、牙と爪が他のコボルトと違って偉く鋭かった。


「ミャーちゃん、あの後ろにいるでっかいのが『盟主』ってやつですか?」

「んー? ……うん。そーだにゃ。でもミャムミャムがむかし戦っためーしゅよりもずっと大きいのにゃ」

「わーお」


 盟主のなかの盟主。キング・オブ・キングみたいなもんか。

 ありゃ手強そうだ。


「はぁっ……はぁっ……な、なあ、あんた、」

「……なにかしら?」

「あんたヒーラー(治癒師)だよな? よかったらよ、俺の仲間の傷を治しちゃくれないか? 無事に帰れたら礼は弾む」


 ドッカーさんは自分が背負っている仲間を視線で指し示してから、ロザミィさんにお願いする。

 背負われてるのは僧侶かな?

 コボルトの爪によって、背中が大きく切り裂かれていた。


「不意を突かれてな。ウチの僧侶と魔法使いが同時にやられちまった。どっちもまだ死んじゃいないが……早く治さないと命を落しかねない傷なんだ」

「そんな……」

「頼む」

「む、ムリよ。そんなに深い傷……あたしじゃ走りながらなんてムリよ」


 通常、回復魔法を使うにはかなりの集中力を必要とするらしい。

 コボルトたちに追い立てられているこの状況下では、なかなか難しいと言わざるを得ない。


「だよ……な」


 ドッカーさんが唇を噛みしめる。

 仲間が死んでしまうかもしれない。それが、たまらなく悔しいのだ。


「というわけで、マサキに任せるわ」

「えぇ!? そこで俺に振りますっ?」

「あたり前じゃない。マサキならできるでしょ?」

「兄さん……あんたならできるのか?」


 ドッカーさんがすがるような眼で俺を見てくる。

 こんな顔をされると弱い。

 しゃーない。いっちょやってみますか。


「いちおうやってはみますけど、あまり期待はしないでくださいよ」

「ああ。それでも頼む」

「それじゃ……」


 俺はドッカーさんが背負ってる細身の僧侶さんに手をかざし――


「ハイヒール!!」


 上位の回復魔法を唱えた。

 暖かな光が僧侶さんを包み、


「う……あ、ここは……?」


 あっさりと意識がお戻りになった。

 背中の傷も、バッチリ塞がっている。傷跡も残っちゃいない。


「ふぃ、フィジカ! 目が覚めたのかっ!?」

「ドッカー……? いったいなにが……」

「いいからまだ休んどけ。いまコボルトの群れから逃げてるとこだからよ」

「コボルト? ……ヒッ」


 フィジカと呼ばれた僧侶さんが、後ろを振り返り小さく悲鳴をあげた。

 状況は理解してもらえたようだな。


「すまねぇマサキ、そっちのキンリュも治してもらえるか?」

「わかりました。そーれ、ハイヒール!!」


 俺は『金剛の盾』の戦士に背負われていた魔法使いにもハイヒールをお見舞いする。

 残念ながらキンリュさんとかいう魔法使いの意識はお戻りにならなかったらけど、傷は塞がったようだった。


「すまない。感謝する」

「お礼は生き残ってからにしましょう」

「そうだな」

「前からもコボルトがきたにゃ!!」


 先頭を走るミャーちゃんが警醒する。

 前方からもコボルトの団体さんがおこしになっているじゃありませんか。


「こっちにゃ!」


 ミャーちゃんが通路を右に曲がる。

 通路を駆け、こんどは左。

 右に左に進み、最後に右に曲がったところで――


「ふにゃ~ん。もう進めないにゃ」


 俺たちは行き止まりに追い込まれてしまった。


「マサキさま! 魔法で通路を塞げますか?」

「おおっ! その手がありましたね! ストーンウォール!!」


 俺は床に手をついて、後ろの通路にストーンウォールの魔法を使う。

 ……しかし、壁はニョッキしなかった。


「この遺跡には干渉はできないみたいだね。しょうがない、みんな覚悟を決めな! やるよ!!」


 ライラさんがバトルアクスを構え、激を飛ばす。


「やるしかないか。ま、べっぴんさんたちと一緒なんだ。楽しいじゃないか」


 ドッカーさんたちも武器を抜きはじめ、戦闘に備えている。

 このまま戦闘に突入してしまう。なにか手はないか?

 考える俺の脳裏に、ふと閃きが走る。


「待てよ。確か持ってきてたような記憶が……」


 俺は自分のバッグをあさり、液体の入ったペットボトルを見つけた。


「あった!」

「なにやってんだいマサキ! コボルトがくるよ!」


 コボルトの大群が牙を剥き、俺たちに迫る。


「待ってくださいライラさん。これを――」


 俺はペットボトルの蓋をあけ、中に入っている液体をコボルトたちにぶちまけてやった。 

 瞬間――


『キャイインッ!? キャイィィンッ!?』

『キャンキャンッ!!』

『キャイーーーーーンッ!? キャウンキャウンッ!!』


 コボルトたちが鼻を押さえ、床を転げまわった。

 いや、コボルトだけじゃない。


「くさーーーーーーーい!! くさいにゃーーーーーーっ!?」


 ミャーちゃんも鼻を押さえ、目に涙を浮かべている。


「す、すみませんミャーちゃん」

「くさーーーーい!! お鼻がいたいにゃーーーーーっ!!」


 目の前で転がるミャーちゃんとコボルトの群れ。


「この臭い……マサキ、アレ(・・)を使ったの?」

「さすがロザミィさん。気づきましたか。そうです、アレを使いました!!」


 俺が投げつけた液体は、対オーク戦でも使ったアンモニア水。

 強烈な刺激臭がコボルトを襲い、その動きを封じたのだ。

 ま、まあ、不幸なことに猫獣人のミャーちゃんに誤爆してしまったようだが、それはそれ。必要な犠牲だったといまはガマンしてもらおう。

 あとでしっかり謝るけどね。


「なんだかわからないけど……チャンスみたいだね。やるよ! キエル、援護は任せたよ」

「わかりました!! 風の精霊よ……矢を運びたまえ……」

「俺たちもやるぞ!! 金剛の盾の実力をべっぴんさんたちに見せてやろうぜ!!」


 これほどの好機を逃すようでは冒険者なんかやてられない。

 ライラさんがバトルアクスで、ドッカーさんたちが両刃剣で切り込んでいき、鼻を押さえて苦しむコボルトを次々と倒していく。


『グルゥゥゥ……』


 手下がやられていくのを盟主コボルトは黙ってみていた。

 やがて、刺激臭がきつかったのか、


『ワオオォォォーーーン!!』


 と遠吠えをし、残ったコボルトたちを連れて引きあげていった。


「…………助かった……のかな?」


 そんな俺の呟きに、


「みたいだね。よくやったよマサキ」


 ライラさんがガシガシと俺の頭を撫でてきた。 


「これで少しは休めるかね? 走りっぱなしでアタイは疲れちまったよ」

「俺たちもだ。できれば休みたい」


 ずっと走っていたから、みんな疲労の色が濃い。


「ここは行き止まりだから、また襲われたときあぶないのにゃ。コボルトたちがいないうちに場所を変えるにゃ」


 ミャーちゃんの提案に俺たちは顔を見合す。


「だってさ。……マサキはどうしたいんだい?」

「どうするたって……」


 意地悪な質問をしてくるライラさん。

 俺はチラリとミャーちゃんの方を見てから、その質問に答える。


「俺も場所を変えた方がいいと思います。ここだと行き止まりで逃げ場がありませんしね。それに――」


 俺はもう一度ミャーちゃんの顔をチラリ。


「こんなにも必死になって鼻をつまむミャーちゃんを、俺は辛すぎて見てられません!!」


 ロザミィさんとキエルさんがクスクスと笑い、ライラさんが「やれやれ」と肩をすくめる。

 その後ろでは、ミャーちゃんが「そーにゃ! そ-にゃ!」とプンスコ怒っていた。

ただいま戻りました(´;ω;`)

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