第11話 お礼参り
スマフォのアラームが鳴り、目を覚ます。
「うー……」
4時間しか寝てないけど、神さまに回復力が高まるチートをもらったから体力は全快していた。
「……シャワー浴びてくるか」
隣で寝息をたてているリリアちゃんを起こさないよう立ち上がり、浴室に移動。
完全に目を覚ますため、熱めのシャワーを浴びる。
「ふぃー。やるぞ!」
頬を叩いて気合を入れ、動きやすい服に着替えた俺は、次にリリアちゃんを揺り起こす。
「リリアちゃん、おきて」
「んー……ほえ? ……おにいちゃん……?」
「おはようリリアちゃん。まだ眠いと思うけど、おきてもらっていいかな?」
「……うん」
リリアちゃんは、布団の中でもぞもぞと少しだけ抵抗してから体を起こし、しょぼしょぼな目をこする。
「リリアちゃん、俺はこれからジャイアント・ビーをやっつけに行ってくる」
「……え?」
しょぼしょぼだったリリアちゃんの目が大きく開かれる。
眠気なんか、どこかにいってしまった顔だ。
「え? え? ええー!? お、お兄ちゃんハチをやっつけにいくの!?」
「ああ。そのつもりだ」
「でも、ハチいっぱいいんだよ! あぶないんだよ!」
「大丈夫。ちゃんと武器も用意したから安心して」
「ぶき……?」
「そう、コレだよ」
首を傾げるリリアちゃんに、俺はマグナムブラスターを見せた。
リリアちゃんの顔に、困惑が浮かぶ。
「この棒が……ぶきなの?」
「そうなんだ。この棒はね、ハチをやっつける煙をだすんだよ」
「けむり?」
「うん。ここを押してごらん」
俺に言われた通り、リリアちゃんがマグナムブラスターのトリガーを押す。
噴射口から殺虫剤が飛び出し、「ブシュー」と音が鳴る。
「わわっ、けむり出てきた!?」
リリアちゃんが驚いた顔でマグナムブラスターを見る。
噴出した殺虫剤は、壁掛け時計にクリティカルヒット。
思い出深い時計がぬらぬらと濡れている。
「けほっ、けほっ……お兄ちゃん、このけむりへんなにおいするね」
「この煙がジャイアント・ビーをやっつけるんだ」
「へー」
マグナムブラスターを手に取り、しげしげと見るリリアちゃん。
「お兄ちゃん、このけむりをぶつけるだけでハチをやっつけれるの?」
「うーん……そのつもりなんだけどね。ひょっとしたら効かないかもしれない」
そこで俺は真剣な顔をして、リリアちゃんの肩に手をおく。
「いいかいリリアちゃん、」
「うん」
「さっき言ったように俺はジャイアント・ビーをやっつけに行ってくる。その間リリアちゃんにはここで待っていてほしいんだ」
「やだ」
即答だった。
「い、いや、あのね――」
「リリアやだ!」
ほっぺを膨らましたリリアちゃんは、プイとそっぽを向いてしまう。
「おねが――」
「ぜったいやだ!!」
取りつく島もない。
これが反抗期というやつなのか?
出会ってまだ2日しかたってないけど。
「リリアもお兄ちゃんといっしょにいくもん!」
「でもね――」
「いくもん!!」
リリアちゃんはマグナムブラスターを抱きかかえて動かない。
「これでぶしゅーってすればハチをやっつけれるんでしょ? それぐらいリリアでもできるもん。だからリリアもお兄ちゃんといっしょにいくもん」
強い意志を宿したリリアちゃんの瞳は、うっすらと涙で滲んでいる。
聡いリリアちゃんのことだ。独りぼっちになるのが嫌なのではなく、俺が自分のために危険なことをするのが嫌なんだろう。
「うーん……まいったなぁ」
正直、リリアちゃんを連れて行くかはかなり悩んだ。
なぜなら俺がジャイアント・ビーとの戦いで命を落とした場合、リリアちゃんが日本に取り残されてしまうからだ。
まったく違う世界で生きるのは、ひょっとしたら死ぬより辛いことかもしれない。
なんせ、文化も違うし言葉も通じないんだからね。
「リリアもいくもん!」
リリアちゃんが抱えているマグナムブラスターの数が増えている。あ、もう一本持った。
「しかたがない……か」
もし危なかったら、また俺の部屋に戻ってくればいいんだ。
それにジャイアント・ビーの活性が低下していたら、逃げることだってできるかもしれない。
「よし! ならリリアちゃんも一緒に戦うか!」
「――うんっ!」
リリアちゃんは満面の笑みで大きく頷く。
「じゃあ、ジャイアント・ビーと戦う前に……煙を出す練習しとこっか?」
「リリアれんしゅうする!」
「よーし! ならまず俺をジャイアント・ビーだと思って煙を出してごらん? 俺はいろいろ動くから、上手く煙を当ててみるんだ」
「うん、わかった!」
「いくぞー。ブーン!」
「えーい!」
ジャイアント・ビーの真似をする俺に、リリアちゃんがマグナムブラスターを吹きかける。
何度も何度も練習し、部屋がべたべたになるころには、リリアちゃんは立派なガンマンになっていた。
二丁のマグナムブラスターを扱うリリアちゃんは、アクション映画のヒロインみたいだった。
「リリアちゃん、準備はいい?」
「うん! バッチリだよお兄ちゃん!」
俺は殺虫剤でべたべたになった服を、リリアちゃんも洗濯してきれいになった元の服に着替え、マグナムブラスターがパンパンに入ったカバンを背負う。
入りきらなかったぶんは手さげ袋に入れてある。
「リリアちゃん、最終確認だ。まず俺がジャイアント・ビーに煙を吹きかける。煙が効いたら攻撃で、効かなかったら――」
「お兄ちゃんに抱っこしてもらって、ここにもどってくるんでしょ?」
「そう。ちゃんと憶えてるね。えらいえらい」
「へへー」
俺が頭を撫でると、リリアちゃんは猫みたいに目を細めた。
そして俺たちは表情を引き締め、
「転移魔法、起動!」
手を繋いで魔法陣の中に入っていった。




