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第28話 冒険者ギルド、獅子の牙

「ここみたいだね」


 先頭を歩いていたライラさんが立ち止まり、目の前にある建物を見あげた。

 俺は入口に掲げられている看板をチラ見して確認。


「うん、ここみたいですね」


 通行人や露店商の方々からお聞きした、プリーデンの街でオススメの冒険者ギルド。それがいま目の前にある『獅子の牙』だ。

 なんでも、依頼数も所属している冒険者さんの数も街で一番らしく、絶えず賑わっているんだとか。


「ふぅ……。緊張するなー」


 初めて来た街の、初めて入る冒険者ギルド。

 緊張から胸がときめきがとまらないぜ。


「マサキ、そんな顔してたらこの街の冒険者にバカにされちゃうわよ?」

「ロザミィさん……。んー、ならこれでどうですか?」


 俺は表情をきりりと引き締める。

 イメージとしては、ギランバレー症候群持ちのスナイパーの顔つきだ。


「勇ましいお顔です! マサキさま!」


 キエルさんには高評価。

 Butしかし、


「…………っ」


 ロザミィさんは必死になって笑うのを堪えているご様子。

 なんか、あとひと押しで噴き出してしまいそうな顔をしていた。


「入るよ」


 ライラさんが言い、俺たちの返事を待たず冒険者ギルドに入るライラさん。


「あ、待ってよ姉さん!」


 ロザミィさんがライラさんの背中を追いかけ、


「マサキさま、わたしたちも行きましょう!」

「ですね。入りましょう」


 俺とキエルさんも続くのだった。





「おお……。マッチョメンだらけだぜ……」


 冒険者ギルド『獅子の牙』の造りは、ズェーダにある『黒龍の咆哮』とあまり変わりがなかった。

 正面に受付カウンターがあって、右側には酒場が併設されている。きっと建物の裏には修練場があるんだろうな。

 強いてズェーダとの違いをあげるなら、規模がちょこっとだけ大きく、高そうな装備をしている冒険者さんもちょこっとだけ多いぐらい。


「「「…………」」」


 獅子の牙にいらっしゃる冒険者のみなさまの視線が、遠慮なく俺たちに突き刺さる。

 初めて来る冒険者への洗礼みたいなものだ。


「……ほぉ。いい女たちじゃねぇか」

「ふむ。戦士ファイター弓使い(アーチャー)治癒師ヒーラー。残りの男は……なんだ? 荷物持ち(ポーター)か?」


 ライラさんに売ってもらった装備の上から防刃ジャケットを着ているせいか、俺の職業は『荷物持ち』になってしまったぞ。

 ふっふっふ。こう見て俺、プロレスもできる魔法戦士(自称)なんだぜ。


「おい見ろよ。あのパーティ、エルフがいるぞ」

「ホントだ。珍しいな……」

「美しい……」

「うちのパーティに勧誘してみるか?」

「ならお前誘ってこいよ」


 ただでさえ女性率の高いパーティで注目を集めているのに、エルフのキエルさんまでいるもんだから、さあ大変。

 ギルド内の視線を一身に集めてしまっているぞ。


 元々エルフという種族は他種族との交流が少なく、大きな街でも見かけることは稀なんだとか。

 しかも冒険者やってるもの好きなエルフはほとんどいないそうで、キエルさんはエルフの中でもレア中のレアなんだそうだ。

 もっとも、当の本人には気にした様子がまったくないけどね。


「えーっと、依頼票はどこかな……と」

「マサキ、あそこみたいよ」

「マサキさま、あちらにあります」

「お、ホントだ。ふたりともありがとうございます」


 ロザミィさんとキエルさんのふたりと一緒に、依頼用紙がペタペタ貼られているボードの前に移動する。



「へー。ズェーダに比べると商隊の護衛依頼が多いですね」

「そうみたいね。アンディが『この街は貿易で大きくなった』って言ってたじゃない? だから護衛依頼が多いんじゃないかしら?」

「あー、そんなこと言ってましたね」


 依頼の3分の1は商人さんからのもので、そのほとんどがお隣の国、アルタネイへ往復するものだった。

 アルタネイがどんな国なのかすげー気になるけど、プリーデンへの道中で盗賊ご一行さまと死闘を演じた俺としては、いまいち食指が動かない依頼といえる。

 もっと胸がときめきでメモリアルな感じになっちゃう依頼はないかな?

 俺がそう考え、他の依頼を探そうとしたその時だった。


「よう坊主、さっきから見せつけてくれるじゃねーか」


 不意に、背後から声をかけられた。


「……俺ですか?」


 振り返ると、そこにはマッチョメンがひとを小バカしたような笑みを浮かべて立っていた。

 デカイ。身長が2メートルに届きそうだ。ゴドジさんのボボサップ体型とは違って、こっちは均整のとれたバランスのいい体型をしている。


「他に誰がいるってんだ? 坊主に言ってるに決まってるだろうが」


 ギルド内にいる冒険者のみなさまからどっと笑いが起こる。

 これは……アレですね。

 冒険者さん特有の『からかい』とか、『可愛がり』ってやつですね。


 ある日、ぷらっとやってきた見知らぬ冒険者パーティー。

 内訳は美女が3人におっさんがひとり。そりゃー嫉妬から文句のひとつも言いたくなっちゃうよね。


「俺たちになにか用ですか?」

「ダメよマサキ。相手にしない方がいいわ」

「ロザミィに同意します。行きましょう、マサキさま」

「まぁ待てよ、姉ちゃんたち『獅子の牙』ははじめてなんだろ? おれが先輩としていろいろ教えてやるからよ。少し酒につき合えよ。ああ、そっちの坊主はいらねぇぞ。端っこで牛の乳(ミルク)でも飲んでな」


 再びギルド内に笑いが起こる。さっきよりも笑いが大きい。

 みんなニヤニヤしながら俺たちのことを見ている。これから起こることに期待している目だ。

 俺は大きく深呼吸し、感情の昂ぶりを抑えてから、


「お断りします」


 とだけ言った。


「……あ?」


 マッチョメンのにやけ顔が凍り付く。

 キレる直前の武丸先輩みたいな顔だ。


「……坊主、ずいぶんと強気じゃねぇか。女の前だからってカッコつけてんのか?」

「ははは、やだなー。強気になんか出てませんって」


 俺はパタパタと手を振り、続ける。


「ただ、俺の大切な仲間をあなたみたいな粗暴な感じのひととお酒飲ませたくないだけですよ」

「……面白れぇ。おれにケンカ売ってるってことでいんだよな?」

「さあ、どうでしょうね?」


 すげーメンチを切ってくる大男に、俺は肩をすくめておどけてみせる。


「ハッハッハ」

「あはははー」


 お互い笑っていても目だけは笑っていない。

 正に一触即発。

 同時に拳を握り、振るおうとしたその瞬間――


「アタイの仲間になにしてんのさっ」

「ぶほぉっ!?」


 ライラさんの蹴りが、マッチョメンの股間に打ち込まれたのだった。

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