第24話 異世界の車窓から
「いやっほぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
俺はヨロシク勇気号で街道を爆走していた。
といっても、時速は50キロほど。
それでも普通の馬車の3~4倍は速いもんだから、助手席のアンディさんが、
「は、はひっ!? はやっ、マサキさん、速すぎますっ! もっとゆっくり――ひぁっ!?」
絶叫マシーンさながらの恐怖を味わっていた。
まあ、一番の原因は手を振ってきた旅人のキッズに、俺が手を振り返してたら木にぶつかりそうになったからだと思うけどね。
あわや大惨事。それがトリガーとなってアンディさんはヨロシク勇気号に強い不信感を持ってしまったようだった。
ギリッギリで木を避けたスリル満点な俺のドラテクに、ライラさんからは「やるじゃないかマサキ」とお褒めの言葉を頂戴したけれど、他の3人は逆の感想を抱いたみたいだ。
先ほどのアンディさんもそうだし、
「マ、マサキ! 前! ちゃんと前見て操りなさいよね!!」
「……マサキさま、よ、よろしければわたしが隣に座って代わりに前を見ますよ? しっかりと前をっ」
後部シートのロザミィさんとキエルさんも、表情が恐怖でひきつっている。
神さまからもらったチートで抜群の反射神経を持つ俺のドラテクは、お豆腐屋さんのご子息もビックリするレベルなのになー。
びゅんびゅん馬車を追い抜き爆走するヨロシク勇気号。
信号待ちする必要のないドライブがこんなにも楽しいとは思いもしなかったぞ。
街道もそれなりに整備されていて走りやすいし、武丸先輩が手を加えてくれたサスペンションはいい感じに仕上がっていて、多少揺れはするけど酔うほどでもない。
快適そのものだ。
「まさ、マサキさん、そろそろ休憩しましょう! ぼく――僕そろそろ席を交替したいです!!]
走りだして1時間もしない内にアンディさんが根を上げてしまった。
「賛成! マサキ、次はあたしが隣に座ったげるわ!」
「マサキさま、この街道は森へ繋がっているそうですから、エルフのわたしが隣に座るべきだと思いませんか?」
「マサキ、アタイが前に座るからこの『くるま』ってのを目いっぱい走らせておくれよ」
限界を迎えたアンディさんのためにヨロシク勇気号を停め、しばし休憩。
すると、すぐに3人が詰め寄ってくる。
「あたしよね?」
「わたしですよね?」
「アタイだろ?」
助手席は大人気。
さて、次は誰に座ってもらおうかな?
「そ、そうですねー…………。あ! ならくじ引きで決めましょうか?」
俺は割り箸の先っちょに『当たり』と書き、他の割り箸と混ぜ合わせて即席のくじ引きをつくる。
「さ、引いてください!」
結果、見事引き当てたのは――
「いいね! 最高じゃないかマサキ。この調子で限界まで飛ばしてみなっ!」
ライラさんでした。
「さあさマサキ、前の馬を追い抜いてごらんよ!」
「オッス! 何人たりとも俺の前は走らせねぇっ!!」
俺はアクセルを踏み込み、前を走る馬を追い抜く。
もちろん、お馬さんがビックリしないように大きく距離を取ってだけどね。
「あはははははっ! 最高だねぇ、このくるまってのはさ。アタイも1台欲しいぐらいだよ。さあ、マサキ、ドンドンいくよっ」
「ヒャッハー!!」
ノリノリなライラさんと悪ノリする俺とは対照的に、後部シートはお通夜状態。
「……神獣様……どうか、どうか僕を無事に……」
「マサキ……あとで……憶えときなさい、よ」
「……ソシエ、ごめんね。もう帰れないかもしれないわ……」
なんか神さまに祈りはじめちゃうわ妹さんとの別れを覚悟しちゃうわで、絶望感が半端ない。
ちょっと心が痛いぜ。そしてロザミィさんがかなり怖いぜ。
そんな感じで進むこと1時間、かなり飛ばしたせいか、当初の予定よりだいぶ速く森が見えてきた。
「いやー、ずいぶん早く進んでるみたいですねー」
森の手前でいったん停止。
本日2度目の休憩に入る。
ライラさんはすっげー楽しそうだったけど、後部シートの3人は恐怖から全身に力を入れていたせいで疲労困憊。しかも汗びっしょりだった。
これはペースが速い分、長めに休憩とりますか。
「マサキさん、僕は寿命が縮まりましたよ……」
「はははー、すみません。ちょっとだけ悪ふざけしちゃいました」
「あれのどこか『ちょっとだけ』なのよっ? ホント怖かったんだからね!」
アンディさんとロザミィさんからチクチクとお叱りを受ける。
ふたりに汗ふきシートを渡して機嫌を取りつつ、森を進むルートの注意点を再度確認。
「アンディさん、この森をもっとも警戒するんでしたよね?」
おれは真面目な顔をしてアンディさんに訊く。
これはヌイグルミを安全に輸送するために必要なことであって、決して話題を逸らそうとしているわけではない。絶対にない。
「はい、そうです。ここしばらくは森での盗賊による被害は聞きませんが、警戒しておくに越したことはありませんからねぇ」
「ふむふむ、なるほど」
「マサキ、盗賊団が拠点を作るなら平野より森の方が都合がいいのさ。なんせ隠れやすいからね。ところでロザミィ、」
ライラさんはそう言うと、ロザミィさんに顔を向ける。
「なぁに、ライラ姉さん?」
「ロザミィは盗賊や野盗と戦った経験はあるのかい?」
「……ないわ」
「そうかい。エルフの嬢ちゃんは?」
「キエルです。『嬢ちゃん』と呼ぶのはやめてください。そもそもわたしは貴方よりも年上なんですよ?」
「そうだったね。すまない。それで? 戦ったことは?」
「人狩りと戦ったことはあります。……負けてしまいましたけど」
ライラさんの質問に、キエルさんが目を伏せて悔しそうに答える。
キエルさんには辛い記憶を呼び覚ます質問だったんだろう。肩が小刻みに震えていた。
「ふぅ……そうかい。マサキは――っと、冒険者になったばかりだからないに決まってたね」
「そんな! 勝手に決めつけないでくださいよ!」
「へぇ……。戦ったことがあるのかい?」
「ふっふっふ……ないです!!」
「「「…………」」」
しばし沈黙がおりる。
「マサキのおバカ! ライラ姉さんは真剣に訊いてるのになにふざけてるのよ!」
「いいよロザミィ」
「でも姉さん――」
「いいんだ。マサキにはマサキの考えがあるんだからね」
ライラさんが視線でキエルさんを指す。
キエルさんは俺の渾身のボケが面白かったのか、クスクスと笑ってくれていた。
「あ……」
それを見てロザミィさんが声を漏らし、ライラさんが小さく笑う。
「そういうこと。マサキはキエルを笑わせたかったのさ。いい男だよ、マサキは」
「いやー、もうずいぶんと彼女いないんですけどねー」
「ならアタイとつき合うかい?」
「ええー!? 俺と――」
「ダメよ!」
「なんでロザミィが断るのさ?」
「ダメなものはダメなの!!」
ライラさんのジョークに、なぜかロザミィさんが慌てている。
あとでゲーツさんに怒られるとでも思ったのかもしれないな。
「オッホン! そんなことより僕は森の街道について話をしたいんですがっ、いいですかねっ?」
わざとらしい咳払いをついて、アンディさんが無理やり話を戻す。
雇用主としては当然の判断だよね。
「すみませんアンディさん、どうぞ話を続けてください」
「楽しそうなお話の腰を折って申し訳ないですねぇ。僕は心が苦しいですよ。いろんな意味で!」
「は、はぁ」
「では森での注意点を全員で確認しましょうか。まず――」
このあと、俺たちは5人でたっぷりと打ち合わせを行った。
商人としてアンディさんの意見を聞き、エルフであるキエルさんから森で気をつけることを訊き、ベテラン冒険者のライラさんから護衛の仕方を学ぶ。
俺とロザミィさんはうんうんと頷いては頭に叩き込んでいた。
そして――
「さあ、森へ入りますよ!!」
俺たちは森へと入っていった。
「昼間なのに暗いな。ライトをつけて進みますか」
ライトに照らされた街道を進む。
森の中といっても街道の道幅は広く、車だったら二車線いけちゃうぐらいの余裕があった。
ロザミィさんの説明によると、「新興国ゆえ交易を重要視し、街々や他国との街道の整備に力を入れているからよ」とのこと。
「こんなに街道が広いならあっさり目的地まで着いちゃいそうだなー」
俺のこの言葉がフラグだったのかも知れない。
「うわっ!?」
どこからともなく矢が飛んできて街道の先に突き刺さったもんだから、慌ててブレーキを踏む。
「矢が……」
後部シートでライラさんが舌打ちし、
「マサキ、『お客さん』だよ』
と言うのだった。




