第21話 集う仲間たち その4
「へ……? ライラさんが一緒に来てくれるんですか?」
「ああそうさ。冒険者引退して長いけど、腕は衰えちゃいないつもりだよ」
ライラさんはそう言うと、「ふふん」と不敵に笑う。
「冒険者時代のアタイは戦士だったんだ。マサキの同行者にピッタリだと思わないかい?」
「わーお。本気で言ってます?」
「アタイはもちろん本気さ。弟やゴドジなんかよりよっぽどいい仕事してみせるよ。……どうだい?」
真面目な顔をするライラさん。
別に俺をからかっているわけではなさそうだ。
「ライラさんの武勇伝はムロンさんからいろいろと聞いてるんで、一緒に来てくれるならこんなに心強いことはないんですけど……でも、」
「ん、『でも』なんだい?」
「その、お店の方はいいんですか? 2~3日かかっちゃいますよ?」
「構やしないよ。もともと閑古鳥が鳴いてる店だしね。それにさ……」
ライラさんは俺を見つめ、続ける。
「マサキには『借り』があるからね。ずっとその借りを返せる機会を待ってたのさ」
「はい? いまライラさん、『借り』って言いました?」
「言ったよ」
こくんと頷くライラさん。
俺は腕を組み、「うーん」と考え込む。
なぜなら、まったく心当たりがなかったからだ。
「『貸し』の間違いじゃなくて?」
「ふふ、『貸し』じゃなくて『借り』さ。アタイはマサキに借りがあるんだよ」
俺は、ライラさんに冒険者装備を安く売ってもらった恩がある。
高価な装備一式を、ずいぶん値引きしてもらったのだ。
だもんだから、俺の方にこそ『借り』はあっても、ライラさんに『貸し』なんかない。まったくない。
「んー……。ダメだ。ぜんぜん思い当たりません。俺ライラさんに『貸し』なんてありましたっけ?」
「あるよ。それも沢山ね」
「どんなんです?」
「ふふ、それはね――」
ライラさんはぴんと立てた人差し指を口元にあて、
「秘密さ」
と言って笑った。
しかもウィンクつきで。
「えぇー。教えてくださいよー」
「ふふ、気が向いたら教えてあげるよ」
「よーし。こうなったらライラさんの気が向くまでお酒飲んじゃおうかな? 仲間もそろったことですし」
「なんだい、まだアタイに付き合ってくれるのかい?」
「はい! あたり前じゃないですか。一緒に依頼を受ける『仲間』なんですから!」
「嬉しいね。なら今夜はトコトン付き合ってもらおうか。親父! 火酒をもう一杯頼むよ。とびきり強い奴をね!」
「お、俺はそんな強くないや――」
「連れにも強いのを持ってきておくれ!」
カウンターのダンディなおじさまが「あいよ」と答え、俺とライラさんのテーブルにアルコールの匂いがきっつい火酒がお届けされる。
「さあマサキ、改めて乾杯だ。依頼に向けた前祝といこうじゃないか」
「へへ、こうなったらとことん飲んでやりますよ! ライラさん、かんぱーい!」
「乾杯」
俺とライラさんは杯を打ち合わせ、火酒をのどに流し込むのだった。
このあと、べろんべろんになった俺は男の意地でライラさんを自宅まで送り届け(どうやって送ったか憶えてない)、揺れる視界のなか、異世界にもタクシーあればいいのになーとか思いながら自宅に帰還(どうやって帰ったのか憶えてない)。
錦糸町に転移するのが億劫になった俺はそのままリビングのソファにダイブし、すやすや眠りにつくのだった。
でもって翌日。
平日にもかかわらず昼過ぎに起きた俺は(リリアちゃんが起こしてくれた)、慌てて錦糸町に転移してダメリーマンとして1日を過ごす。
フサフサになった髪をボサボサにして出社したら、課長にネチネチと小言を言われたけど、営業ノルマはもう達成してるから問題はない。
営業は成績こそがジャスティス。
課長がなにを言おうが、フサフサになった俺の会社での評価は揺るぎないのだ。
「おっし、そんじゃ次の週末あたりにアンディさんの依頼をやっちゃいますか。ヨロシク勇気号があるからちゃちゃっと終わりそうだなー」
俺は仕事の合間に予備のガソリンを入れる携行缶やら、キャンプ道具やら携帯食料やらを買いあさっては、着々と異世界へ運び込むのだった。
ヌイグルミの、輸送依頼に備えて。
本日、普通のおっさん2巻の発売となります。
また、HJノベルのサイトでは、一週間限定で1巻をまるまる読めちゃうみたいです。




