第20話 集う仲間たち その3
「久しぶりだねマサキ。変わりないかい?」
ライラさんは俺に近づくと、そう訊いてきた。
「バッチリですよ!」
親指をずびしっと立てて頷く。
ライラさんには武器や鎧のメンテナンスでお世話になってるんけど、ここ最近はお店に顔を出せていなかった。というか行く用事がなかった。
だもんだから、ライラさんに会うのがけっこー久しぶりだったのだ。
「そうかい。元気そうでなによりさ」
「はははー、なかなかお店に行けなくてすみません。ここんとこちょっと立て込んでたんで、ぜんぜん冒険者してなかったんですよねー。装備も前回整備してもらったまんまですし……」
競馬でおカネを稼いで自宅に発電機設置したり、孤児院のキッズたちを集めてヌイグルミ工場つくったりと、冒険のぼの字もしてない。
そのくせロザミィさんと海行ったりしてたもんだから、ライラさんに対してちょっとだけ心苦しいぞ。
ライラさんは俺が冒険から無事に帰ってこれるようにと、真剣に装備のメンテナンスをしてくれていたからだ。
「ふうん、最近顔を見せてくれないからさ、他所に浮気してんじゃないかと思ってたよ」
「なーに言ってんですか。俺はいつだってライラさん一筋なんですからね」
「……っ。言うじゃないか。一途な男は嫌いじゃないよ」
「おおー。やったぜ」
なんかしんないけど褒められた。
とりあえず拳を握ってガッツポーズをしておく。
「マサキはこのあと用事でもあるのかい?」
「うーん。あるっちゃありますけど、ないっちゃないですね」
なんせ戦士タイプのお仲間を見つけないといけないのだ。
目的はあれど、宛てがまるでない。
いまの俺は迷える子ヤギのように儚い存在なのだ。
「なんだい、はっきりしないねぇ」
「ははは、すみません。一緒に依頼を受けてくれる仲間を探してるんですけど、ぜんぜん心当たりがなくて困ってるとこなんですよねー」
「じゃあなにかい? いまひとりで悩んでる……ってことだね?」
「はははー……はい」
俺は頷き、がっくりとうなだれる。
ヌイグルミ輸送依頼を受けてくれる『同行者』を見つけるだけなら、レコアさんに頼んでギルドに張り紙すれば集まるとは思う。そう、『集まる』だけなら。
依頼料も破格だし、ギルドの人気者キエルさんもいる。それこそ応募は後を絶たないだろう。
でも、それが『信頼のおける仲間』ともなると話は別だ。
冒険者のフリして価値の高い輸送品を狙うヤツが出てくるかもしれないし、キエルさんは人狩りに襲われた経験もあるから、親しい相手以外にはなかなか心を開かない。
ヨロシク勇気号を使うことによって、輸送の安全をある程度確保(めっちゃ速くて頑丈だから)できたいま、プライオリティを置くべきは信頼関係なのだ。
「なにがあったが知らないけど、元気をお出しよ」
「……おっす」
ライラさんが俺の肩をぽんと叩く。
「ちょうどいい、ならアタイに少し付き合いな」
「つき合う……? いったいどちらに?」
「コレだよ、コレ」
ライラさんはエアジョッキを握り、お酒を飲むジェスチャーをする。
世界は違えど、お酒のジャスチャーはどこも変わりないようだ。
「いいですね。おつき合いさせてください」
「なら決まりだ。アタイについてきな」
「はい!」
ライラさんに連れられて入ったお店は、職人街近くの酒場だった。
冒険者のお客がいない代わり、いかにも『職人です』といった方々が賑やかにお酒を飲んでいる。
「ここはアタイがひいきにしてる店でね、よくひとりでくるのさ」
「へー、ライラさんてひとりで飲むのがお好きなんですか? かっくいーなー」
「いっしょに飲む相手がいないだけだよ」
「えぇー。うっそだー」
「嘘なもんかい」
「ライラさんみたいに魅力的な女性なら、お誘いがいっぱいあると思うんですけどねー」
なんせライラさんは美人なうえにスタイル抜群だ。
ちょいと筋肉質だけど、俺からすればそんなところも魅力のひとつだったりする。
「嬉しいこと言ってくれるじゃないのさ。でも、無理して世辞なんか言わなくていいんだよ」
「お世辞なんかじゃないですって。それと、俺でよければいつでもお付き合いしますよ?」
「……言ったね。もう取り消せないよ?」
「ええ。俺でよければいつでもお酒に誘ってください。というか俺から誘わせてもらいます」
「……なんだい、そっちのことか」
「へ? どっちのことです?」
「なんでもないよ。じゃあこんどからマサキからの誘いを待つことにするかね」
「おっす! 今度の依頼が終わったら誘いに行きますね」
俺はエールを、ライラさんは火酒を頼む。
ジョッキを打ち合わせ乾杯したあと、
「それでマサキ、なに悩んでんだい?」
とライラさんが訊いてきた。
「よくぞ聞いてくれましたライラさん! 実はですねぇ――――……」
俺はヌイグルミ輸送依頼を受けたこと。ゲーツさんに断られてしまったこと。いまのところ同行者がロザミィさんとキエルさんの後衛職だけなので、信頼できる戦士(前衛)を探していることなどを話した。
「……なるほど、マサキが悩むのも仕方ないね」
「わかってくれますかライラさんっ?」
「当然だろ? 『信頼できる仲間』、こればっかりは運頼みさ。武器や防具と違ってカネを積めば手に入るわけじゃない」
「そうなんですよ!」
「本当ならアタイの弟を蹴とばしてでも同行させたいとこだけど……弟がゴドジの為に残るって言ってるんじゃ、それもできやしないね」
「そうなんですよ!!」
俺はうんうんと何度も頷く。
さすが経験豊富なムロンさんとパーティを組んでいただけのことはある。
俺の苦労をこんなにも理解してくれるなんて……。うっかり目の奥が熱くなっちまったぜ。
「仕方がない、アタイがひと肌脱いでやろうじゃないか。マサキ、」
ライラさんが真っすぐに俺を見つめ、続ける。
「その依頼、アタイも一緒に行ってやるよ」
ライラさんのイラストと2巻の表紙を活動報告にあげてあります。
よかったら覗きにきてください。




