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第17話 よろしく勇気

「――――というわけでですね。買っちゃいました。車」


 異世界こっちの自宅の庭に鎮座するオフロードなマシンをロザミィさんに見せたところ、


「………………え?」


 という、とても淡白な反応を頂戴いたしました。


「……あのねマサキ、」

「はい、なんでしょう?」

「マサキは『買った』って簡単に言ってるけどね、こんなモノ()が街を走っていたらみんなビックリするでしょうがっ!」

「あ~、確かに」


 俺はポンと手を叩く。

 異世界じゃ車なんかオーバーテクノロジーの塊だ。

 自走する謎の物体でしかない。

 そんなものに乗っていたら、目立ちまくってしかたがない。


「う~ん……。あ、それなら魔法道具マジックアイテムってことにできませんかね? 古代遺跡から見つけてきた的な?」

「却下。王族だって持っていないようなマジックアイテムを一介の冒険者が持っていると思う?」


 だめかー。


「そうですね~……。よし! ならここに――」


 俺はオフロードなマシンのボンネットを指さし、続ける。


「馬の頭部を模した被りモノをくっつけて、BGMで馬のいななきをガンガンにかければ合成獣キメラっぽく見えませんかね? 凄腕の錬金術師に創ってもらった的な?」

「邪教徒と間違われて火あぶりにされる覚悟がマサキにあるなら止めないわよ」


 だめかー。


 この後も俺はいくつか提案を出しては、そのことごとくをロザミィさんに却下され続けた。


「はぁ……」


 こめかみに手をあてたロザミィさんが、すげー深いため息をつく。

 なんだかお疲れなご様子。

 俺から使えそうな案が出でこなかったせいだろう。


「わかったわマサキ。ならこうしましょう」

「はいはい、ではどうしましょう?」


 ロザミィさんはオフロードなマシンにポンと手を置き、俺を見つめる。


「まず、この『くるま』は街中で走らせないほうがいいわ。馬や獣を必要としない乗り物なんて、見つかったら大騒ぎになるでしょうね」

「ですよねー」


「貴族や魔術師ギルド、錬金術師に秘術師、それ以外にもクルマの価値に気づく者は多いでしょうね。それこそ数えはじめたらキリがないわ」

「な、なるほど」


「だからくるまを使うなら街の外。街から街への移動のときだけにしましょう」


 ロザミィさんの提案に、俺は腕を組んで思案する。

 確かに車は街の外だけで走らせた方がいいかもしれないな。


 街中はひとの往来が多い。事故でもおきたら笑えないことになる。

 車は走る凶器なんだから、周囲の安全にも気を配るのがドライバーとしてのマナーだ。

 

 それに積荷はカーゴトレーラーに入れて、俺が街の外までひっぱっていけばいいだけだしね。

 馬じゃなく人力で運ぼうとする俺を見て、アンディさんは不安を感じるだろうけど。


「考えてみましたけど……どうやらそれが一番よさそうですね。それじゃ、そのアイデアいただいちゃいます!」

「うふふ。いただいちゃっていいわよ」


 笑顔と一緒にウィンクを飛ばすロザミィさん。

 そんな俺がやったら周囲がドン引きしちゃうようなことでも、ロザミィさんがやれば絵になるんだからズルいもんだぜ。


「どうマサキ、くるまがあれば移動日数をかなり短縮できたんじゃない?」

「そうなんですよ。馬車で5日の距離って、車を使えばその日の内に往復できちゃうぐらいの距離なんですよねー」


「そ、そんなに!? くるまだとそんなにはやく移動できるのっ?」

「ええ、俺も調べてみてビックリしました。馬車って意外と進まないんだなー、って」


 馬だって生き物。ずっと走り続けられるわけがない。

 途中で何度も休憩をはさみ、馬を休ませなくてはならないのだ。


 インターネッツで調べてみたところ、馬車の移動距離は1日50キロほど。

 つまり馬車で5日の距離とは、250キロ程度でしかない。


 東京からだと浜松とか福島あたりの距離だ。 

 道が舗装されてないとはいえ、信号も渋滞も存在しないんだ。

 がんばれば一日で往復できないこともない。


「一日で往復できるなんて……驚いたわ」

「なーに言ってんですか。一緒に海いったときあったじゃないですか? 錦糸町からあそこの海が馬車で4日ぐらいの距離ですよ」


「ええっ!? ……ぜ、ぜんぜん気づかなかったわ。でも思い返してみるとすごい速さで走っていたような気もするわね……」

「ははは、ロザミィさん車の中ではしゃいでましたもんねー。『海よ! 海にいけるのね!』って」

「……いいじゃない。海に行くの、は、はじめてだったんだから。――それよりもっ!」


 顔を真っ赤にしたロザミィさんが、わざと大きな声をだして話を戻す。


「マサキはこのくるまを使って依頼を受けるつもりなのね?」

「ですね。俺も孤児院の子どもたちが作ったぬいぐるみがちゃんと売れるか、最後まで見届けたいですし」

「ふーん。このくるまは何人までのれるの?」

「基本は4人ですけど、ぎゅうぎゅうにつめれば5人まで乗れます。まー、今回は俺と依頼主であるアンディさんの二人旅になりそうですけどね。おっと、となるとアンディさんに車のこと口止めしなきゃですね」


 ぬいぐるみの輸送速度をあげることを条件に交渉してみますか。

 

「5人まで、ね。……ねぇマサキ」

「はいはい?」


「マサキは1日で往復するつもりかしら?」

「んー、そればっかりは状況しだいですかねー。正直なところ、余裕があれば目的地で一泊しておきたいです。さすがにぶっとうしで運転するのは疲れるんで……」


 それに、せっかくだからズェーダ以外の街も観光してみたいしね。


「そっか。それでも2日間ぐらいよね?」

「そうなりますね」


「ふーん……。決めた。ならあたしもついていくわ」

「わーお。マジですか?」

「マジよ! だってマサキひとりじゃ問題が起きたとき対応できないでしょう? だからついてってあげるの」


 ロザミィさんの申し出はかなり嬉しいぞ。

 なぜなら、アンディさんから異世界こっちの話題を振られでもしたら、確実に動揺してしまうからだ。

 必死に取り繕うとして、さぞかしぎこちない会話になることだろう。


 だもんだから、ロザミィさんがついてきてくれることは俺にとってかなり助かることだった。


「助かります。よろしくお願いしますね、ロザミィさん」

「フォローは任せておいて!」


 ロザミィさんが自分の胸を叩く。

 大き目なお胸がぽよんと揺れ、俺は目のやり場に困りつつも、


「期待してます!」


 と言っておいた。

 

「ところでマサキ、」

「なんです?」


 ロザミィさんがオフロードなマシンに視線を送りつつ、訊いてくる。


「このくるま、なんて名前なの?」


 その質問に、俺はニヤリと笑う。


「ふっふっふ、このオフロードなマシンの名前はですねー」

「名前は?」


 そしてドヤ顔をキメると、声大にして答える。


「このマシンの名は、『ヨロシク勇気号』です!!」


 ロザミィさんの反応は、やっぱり芳しくなかった。

前回の話は多くの感想をありがとうございました。

ちょっとづつ返していくので、少しお時間をください。

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― 新着の感想 ―
あばよ涙よろしく勇気
[一言] 車かよ!、アホみたいな話になって来た(今更かな) ここ迄で読み止めします。頑張ってください
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