ほんもの
背の高い男は親が子供に正しいことを言い聞かせるような口調で言った。
「千ギルドでいいって言ったのに5千ギルドももらうことはなかったんですよ」
背の低い男はもらった5千ギルドを右ポケットの中で握りしめながら男を見上げた。
「頭おかしいんじゃないか。お前が何も言わなきゃあのばばあは家からかき集めて金を俺に献上したっていうのによぉ。カッコつけてんじゃねーぞ」
ほんとになんなんだこいつは、おれたちは旅をしていて金はいくらあっても足りないっていうのに。二人は昨日助けた老婆の一件でまだ揉めていた。
「今はお金に余裕があるのに3万ギルドなんて大金は必要ないでしょう。必要以上のお金は人をダメにするってママが言ってたし」
ママが言ってたが口癖のこの長身の美青年の名前はジュライ。いつも肌身離さず弁当が包めるくらいのタオルを携帯している。落ち着かなくなるとタオルの臭いを嗅いでしまう。
「それに君のライヤーで魔物を倒せたのはたまたま運がよかっただけなのに、そこからお金まで得ようなんて虫がよすぎるでしょ」
ライヤーとは英語のライヤー(うそつき)と炎をジュライが混ぜて作った造語である。
「オレ様の炎をライヤーって言うんじゃねぇ。もういいよこんなめんどくさいやり取り。だれも聞いちゃいないんンだからよ」
炎の魔法を使う背の低い童顔の彼はメイという。炎の魔法を使う。口が悪く態度のでかい男だ。この世界では魔法を使える人間がいる。使えるかどうかは才能のようなもので才能のない人間がいくら努力しても身につかない。現在、十人に一人が魔法を使えると言われている。強力な魔法を扱えるようになるには同じ魔法を何度も使い鍛錬するのが一般的な方法と言われている。しかし、魔法を使うにはそれなりのリスクがあるのだ。また扱える魔法は人によって決まっていて、例えばメイのように炎の魔法が使えるのは炎を扱えるように修業したわけではなくたまたまその能力があったというだけなのだ。だから炎を扱う魔法以外は使いたくてもからっきしなのである。では、メイはどのようにして炎の魔法を会得したのか。これはわからない。なぜなら彼はジュライと出会う以前の記憶がないからだ。気づいたら使えたとか、使っていたとかそんな感じなのである。実際、自分にはどんな才能があるかなんて本人にもわからないのと同じようにどんな魔法が使えるかどうかは偶然に見つけるようなものなのである。だから十人に一人しか魔法は使えないと言われているが潜在的に能力を持っている人でいえば三人に一人とも言われているのである。
口が乾いて話すの億劫になっている。次の村を目指して歩いて半日ほどか。老婆にもらった竹でできた水筒にはまだ十分に水が入っているがいつ水が確保できるかわからないのでけちってしまう。しびれを切らしたメイが叫んだ。
「人がいるところはまだかよ。ジュライ今日はここで野宿にしよう。魔法でテントを作ってくれ」
童顔のメイが座り込みながらいうので子供のように見える。
「そんな魔法はありません。ならメイは暖をとるために火をつけてくださいよ」
疲れたうっぷんを嫌味で発散しようとしたメイにサラッと嫌味で返すジュライ。あきらかにめんどくいやり取りの応酬になりそうだったので一言で終わるような言葉を選んだ。
「そんな魔法つかえねぇわ」