98.帰れるかもしれません、が
朝食は、オレンジジュースとパン、ハムとチーズというシンプルなお献立だ。
もちろんすべてのメニューの後ろには「っぽいもの」という注意書きが必要なんだけど、味や見かけが地球のお食事に似ているって、すごい嬉しいです。
お金持ちのおうちの朝ごはん!ってことでちょっと期待していたのは裏切られた感じはあるけど、それはそれ。
普段の自宅でのごはんも、こんなもんだしねー。
ただちょっと、……お野菜系がほしいかな。
ビタミン不足怖い。
とりあえず、オレンジジュースをガンガン飲んでおく。
これで少しはビタミンが補えるといいんだけど。
セーグルのハード系のパンをせっせとちぎって口に運んでいると、私と同じくジュースをがぶ飲みしていたフィリップ様が、ゆっくりと口を開いた。
「レイモンド様。昨晩伺っていた、美咲様を元の世界に戻す方法ですが」
「……なにか、お心当たりがございましたか?」
穏やかな口調のフィリップ様と対照的に、レイは緊張したように問う。
ていうか、レイ、昨日の夜、わざわざフィリップ様に尋ねに言ってくれていたんだ?
あの時すでにけっこう遅い時間だったのに。
帰したくないなんて言っていたくせに、レイはほんとフェアだ。
私はレイに微笑んで感謝を伝え、それからフィリップ様へと視線を移した。
フィリップ様は、レイの反応を鷹揚に受け止めつつ、オレンジジュースを飲む。
「そうですね。実は、少々心当たりがないではないのですが」
「本当ですか!?」
私は思わず立ち上がって叫んだ。
レイも声をあげ、テーブルに手を置く。
その手がかすかに震えているのを見て、私は申し訳なくなる。
椅子に座り直し、そっとレイの手に、手を重ねた。
「ええ、まぁ。ただその記憶もあいまいで…。王都の邸に戻って、関連の文献を調べないと、なんとも言い難いのです」
「それでも…、可能性はあるんですよね!?」
「ええ。可能性という意味では、あります」
フィリップ様は慎重に答えたけれど、私は胸が高鳴るのを抑えられなかった。
「よかった…、帰れるんだ。私」
「……まだ、可能性だけですよ?」
「え、ええ。わかっています」
「……それは、確かなのですか?」
うかれきった私の手を固く握り、レイがフィリップ様に問いかける。
フィリップ様は優しい面差しを曇らせ、あいまいにうなずいた。
「それは、なんとも申せません。わたくしもずいぶん以前に見ただけですので」
「そうですか……」
レイは私の手を離し、目を覆うように手を顔にあてた。
「フィー様は、この世界でいちばんの魔導士だ。俺は、美咲のために、喜ぶべきなんだろうな」
読んでくださり、ありがとうございます。




