97.恋人って紹介されましたが
朝食をとるためにと案内されたのは、日当たりのいい広いお部屋だった。
大きなテーブルには、4人分のお皿やカトラリーがセットされていて、奥のほうに小柄な男性がひとり、座っていた。
「フィー様。お待たせしました」
ダイアモンド様は部屋に入るなり、男性のもとへ飛ぶように歩いていく。
あんなスピードで歩いていても、どこか優雅に見えるのはさすが。
だけど、あの人とどういう関係なんだろう。
「いいえ。考えごとをしていましたので、すぐでしたよ。相変わらず、このお屋敷は過ごしやすい雰囲気ですね。ついつい和んでしまいます」
「そっ、そうですか?フィー様にそういっていただけるなんて、光栄です!」
座っていた男性が和やかに笑いながら言うと、ダイアモンド様はほんのりと頬をそめ、嬉しそうに返した。
……おや?
私はダイアモンド様の反応に、ラブ的なものを感じて、その男性をじっと観察してしまった。
男性は、座っているから体格ははっきりわからないけれど、だいぶん小柄な印象だった。
たぶん身長は170cmくらいかな?
ダイアモンド様とそう変わらないと思う。
黒い髪に紫の目。だけどどこか日本人みたいな雰囲気がある。
さらさらした切り揃えられた黒髪のせいだろうか。
旧家のお坊ちゃん、みたいな雰囲気。
おっとりした笑みが、そんな雰囲気をますます醸し出している。
年齢は、16、17歳くらい?
高校生くらいに見えるけど、ダイアモンド様に対する余裕な態度を見ていると、もっとずっと年上かなとも思う。
まじまじと見ていると、彼は立ち上がって、私に笑いかけた。
「そちらが、お噂の美咲様ですか?初めまして。わたくし、フィリップ・キルヒェンシュタインと申します。魔導士をしています」
「わ、私は伊坂美咲と申します。……ええと」
昨日レイがお屋敷の人たちに、私が異世界人だと話していたので、もう異世界人だと人に明かすべきか迷う。
するとレイが私の言葉の後を引き取り、
「俺の恋人で、婚約者候補だ。出身は、異世界だな」
恋人で、婚約者候補。
肩を抱きながら言われて、顔が赤くなる。
昨日、街の門衛さんに婚約者だとほのめかされた時は、嘘だとわかっているからそんなに動揺しなかったけど、今は私、本当にレイの恋人なわけで。
うわぁ。なんかこういうの嬉しいな。
ちらりとレイの顔を見ると、レイの顔もちょっとだけ赤い。
…ますます嬉しくなるって、おかしいかな。
そんな私たちを、フィリップ様は孫を見るような和やかな目で、見守っていらした。
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