96.元の世界に帰るという決意は固いはすなのですが
帰したくない?
それはダメだってば。
私は帰る。帰るんだから。
キスは、私もしたかったからいい。
でも私はいつか元の世界に帰るんだから、これ以上はダメだ。
だけど、どこまでならいいの?
いつまで、しないほうがいいの?
私はいつまで、レイのそばにいたいっていう思いより、帰りたいって気持ちのほうが強くいられるの?
もしも帰れなかったらと考えれば、この好きになったばかりの人のそばにいるのがいいと思った。
レイは優しいし、もし戻れなかったら結婚してくれるっていうんだもん。
元の世界に帰れない時のことを考えれば、ラッキーだと思った。
だけど。
私は保険をかけたつもりで、危険なことに手を出しているのかもしれない。
いつまで私は、元の世界に帰りたいと願う今の私でいられるだろう。
大切なものにふれるように、レイは優しく私の背をなぜる。
帰したくないというレイの言葉は私にとっては不易なのに、うれしく感じてしまう。
あぁ。
「そろそろ、いーい?」
トントンとノックの音がすると同時にドアが開き、にやにや顔のダイアモンド様がドアから顔を出した。
「邪魔したくなかったんだけどさー。そろそろ朝ご飯を待つのも限界なんだよね。軽い打ち合わせもあるし。こっち来てくれるかなー?」
「ダ…、イアモンド様……」
レイに抱きしめられているところを、見られてしまった。
赤くなる私をよそに、レイはひらひらと手を振る。
「わかった。待たせてすまねーな」
「いい表情してるじゃん、レイ。ふっきれたんだ?」
「ああ。お前のおかげで、ふっきれたっつーか。コイツを離したくねーなって気づいたから」
レイはさらりと言う。
くっそ、恥ずかしすぎて顔があげられない。
こいつどんな表情でそんなことを姉に言っているんだ。
ふつう家族にこういうとこ見られるのって、恥ずかしくない?
私はこんなに恥ずかしいんですけど…!ってギリギリしていたら、ダイアモンド様は不思議なほど優しい声音で言う。
「……そうかよー。よかった」
なんだろう。この雰囲気。
私は羞恥も忘れて、心の中で首をかしげた。
ダイアモンド様のこの雰囲気は、昨夜もレイのことを語っている時に感じたものだった。
昨夜のダイアモンド様の言葉が耳によみがえる。
(私、あいつには迷惑いっぱいかけているから、あいつがそんなふうに思う相手のことは、絶対にひきとめたいって思ってる)
二人の間には、なにかあるんだろうか。
そう思って見ても、笑いあう二人は、やっぱり仲のいい姉弟にしかみえない。
レイは私を抱きしめていた腕をほどき、言う。
「とりあえず、朝飯食うかー」
読んでくださり、ありがとうございました。
ブクマもうれしいです。
ゴールデンウィークですねー。




