92.異世界人の気持ちは奇奇怪怪ですが
あぁ、まただ。
息がつまりそう。
窒息寸前みたいな閉塞感は、おなじみのものだ。
いつだって私は、現実の前でたじろいでいる。
自分が望んでいたその手が伸ばされた今さえ、その手を握り返すことを躊躇している。
元の世界に戻りたいから、この手をとれないというのは本音だけど、それだけじゃない。
自分とレイのスペックの違いにたじろいで、いつかレイに見限られた時のことを考えて、防御の壁を張り巡らせようとしているんだ。
そのくせ、レイがその壁を壊すほど、私を望んでくれることを願っている。
わがままで、ずるい。
それが私だとふだんは割り切って受け入れているのに、時々耐え難い自己嫌悪を感じる。
ほんの少し顔を近づければキスしてしまいそうな距離で、レイはじっと私を見つめて囁く。
「ぜんぜん不満なんてなかったはずなんだけどよ。お前が俺に手を伸ばしてきたとき、あーこういうのいいなって思ったんだよ」
「私はしまったーって思ったよ」
「だろうな。俺も、お前の警戒心のなさとか、男に対する距離感とかに驚いたけどよー。お前も自分がしたことに驚いているっぽかったもんな。一瞬、お前はまだ子どもなのかと思ったけど、あの反応で、あ、大人だなって安心したんだぜー」
「安心?」
「子ども相手に好意感じてたら、やべーだろ」
「……いや、見た目で子どもじゃないってことはわかるでしょ」
たぶん。
こっちの世界の成人年齢とかがわからないけどさ。
「大人っぽくて、成長のはやい子どももいるだろ?それに俺もダイアモンドも癒し人だから、外見では、人間の年齢がいまいちよくわかんねーんだよな。見た目ってあてにならねーもんだって思ってるせいかもしれねーけどよ」
「ふぅん?」
癒し人の生体がぜんぜんわからないから、そういうものだと言われれば、そういうものかと思ってしまう。
まぁ年齢と外見がつながらないって、私にとってはラッキーかもしれないから、あまりつっこまないでおこう。
「で、よ。美咲、そのあと急に冷静になって、はやく逃げようとか、足手纏いになったらおいていけとか言うだろ?」
「うん」
「手とか、震えているくせによー。……正直、なぁ。ちょっと腹が立ったんだよ。ヨーダなんて、俺にとっちゃ倒せて当たり前の魔獣なのに、女一人かばえないと思われているのかよって」
「…そんなつもりじゃ」
「ねーんだろ?俺が守るって言ったときは、あっさり信じたしな。俺の説明も悪かったんだろうけどよ、お前は単純に俺の身を案じてくれただけだったんだよな?」
「うん。レイが戦わずに逃げるって選択をしたのは、危険だと判断したからだと思ってたし。それにそうじゃなくても、相手は魔獣だし、おまけに森の中だったし。レイがどんなに強くても、自然の中では絶対的な強者なんていないもの。初対面の人に、そんな状況でも自分を守ってなんて言えないよ」
「そのくせ、放っておけとは言わねーし」
「だって、それは私も生き残れるなら、生き残りたいし」
図々しかろうと、それは譲れないよ。
私は基本、甘えたなんだから。
自分の能力が低めだし、頼れる時はがんがん頼っていきます。
命とかかかっていれば、ためらわないよ!
ただ、それでも最低限の線引きはあるっていうだけだ。
「そういうとこ」
読んでくださり、ありがとうございました。
ブクマもうれしいです。




