87.プロポーズされましたが、
齢30にして、初めてプロポーズされたよ!
レイは私の前に跪いて、私の手をとり、私を見上げてくる。
さて、ここに結婚を猛烈に夢見ている女がひとりいます。
目の前には超絶美形で有望そうな男がひとり、跪いて自分にプロポーズしています。
いちおう本気みたいです。
いいですねー。これはすぐさま「嬉しい!」とか叫んで、抱き付くところですねー。
そう思うよ、私だって。
これが、他人事ならな!
「嬉しい」
私はそう言って、レイの手を握り、しゃがみこんでレイと視線をあわせた。
レイはかすかに戸惑いつつも、嬉しそうにくしゃりと笑う。
あ、その顔好きだわ。
またひとつ、この人のことを好きになる。
だけど、さ。
「でも、そのプロポーズは受けられないよ」
あぁあもったいない!
自分で言っておきながら、つっこまずにはいられない。
だってさ、これから何十年も生きたって、これだけいい男にプロポーズされる可能性ってどれくらいあるのよ?
顔よし、性格よし、将来有望、おまけに私のことを好きだって言ってくれる人なんだよ?
なんの文句があるっていうんだ。
そりゃ異世界の人だけどさ。
でも私だって、レイのこと好きなのに!
「私も、レイのことが好き。だけど」
「わかってる。元の世界に戻りたい、だろ?」
「うん」
レイはそっと私の手を包み込むように、握りしめてくれた。
その手のぬくもりに、負けそうになる。
帰れるか帰れないかぜんぜんわからない故郷。
不安で、怖くて、誰かにすべてを投げ出して守ってほしくなる。
この温もりにすべてを託せたら、どんなにいいだろう。
「美咲の気持ちはわかるんだよな。俺だってとつぜん別の世界に行ったら、弟やダイアモンドたちのことが心配でたまんねーよ。だから、美咲の気持ちはわかるんだけど、だけどよー」
レイは一瞬どこかが痛むように顔をゆがめ、言う。
「昨日ダイアモンドが言ってただろ?遠慮して逃がしたら、一生後悔するって」
「ああ…、そういえばそんなことをおっしゃっていましたね」
ダイアモンド様勘違いがすぎるって思ってたんだっけ。
だけどレイは私の手を握ったまま、じっと私の顔を覗き込む。
「あの時は、お前を引き留めるつもりはなかったんだ。美咲が帰りたいって言う気持ちはわかるし、美咲のためになんかしてやりてーなって思ってたんだけどよー」
「うん」
そこまで言って、レイはまた言いよどむ。
プロポーズより言いにくいことってことなんてないだろうに、なんだろう。
じっと見つめられているのって、照れくさい。
私は羞恥をごまかすために、レイと握り合っている手に視線を落としつつ、ぼんやりと考える。
帰りたいのはほんとうなのに、引き留めるつもりはないって言われると寂しい。なんて。
思わず、ため息が漏れた。
私ってなんて勝手なの。
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