79.長い一日がようやく終わりそうですが
「お心はありがたく頂戴します」
ふぇぇ。光栄なんだけど、なんか怖い。というか重い。
お世話になるおうちの方ができるだけの便宜を図ってくれるっていうなら、大喜びすべきところなんだろうけど、その背景が怖いよ!
レイのことは好きだと自覚したとはいえ、異世界に嫁ぐ覚悟なんて、出会ったその日に決めろって言われても無茶ぶりでしょ。
このセリフを言ってくれたのがレイ本人なら、また気持ちも違うかもだけどさ。
本人は引き気味なのに、ご家族がヒートアップしちゃってもなぁ…。
お互いの気持ちが定まってからなら、すっごく心強いんだろうけど、今の時点ではちょっと怖いです。
ありがたいのはありがたいんだけどね!
完全にダイアモンド様の迫力に押し負けて、私はひきつった笑顔を返すのがようやくだった。
だけどダイアモンド様はそれでも一応満足してくれたみたいで、「よし」と手を離して、立ち上がった。
「じゃぁ私も失礼するね。あんまり遅くなったら、レイに怒られるし。……と、その前に」
ダイアモンド様は、テーブルの上を片付け終えて傍に控えていたメイドさんを手で示した。
「紹介しておくね。今日から美咲さんにつくことになったメアリーだよ。実力と度胸はレイのお墨付きだから、安心してなんでも頼ってね」
ダイアモンド様が言うと、メアリーさんは誇らしげに微笑み、私に頭を下げた。
「よろしくお願いします、美咲様」
「こちらこそ、お世話になります」
メアリーさんはちょっとキツめの美人だけど、快活な話し方が親しみやすい感じだった。
「明日の朝は、メアリーが起こしに来るから、それまでは部屋でゆっくりしていて。なにか用があれば、この紐をひっぱって。下の使用人室につながっていて、メアリーか、手があいていなければ他のメイドが来るから」
「わかりました」
ダイアモンド様がさらにお部屋の細かい案内をしてくれている間に、メアリーさんはテーブルの上をすっかり片付け、かわりに水差しとグラスを置いてくれた。
「じゃぁね、今日はもうゆっくりしてね」
ダイアモンド様は一通りの説明が終わると、ひらひらと泳ぐような足取りで部屋を出ていかれた。
メアリーさんもその後について部屋を出ていくので、私はお二人を部屋の扉までお送りし、「おやすみなさい」を言う。
そして扉を閉めると、ふらふらと部屋にもどり、ベッドに飛び込んだ。
顔を洗って、服を着替えなくちゃ…。
メイクはほとんど落ちている気がするけど、保湿しなくちゃ顔ががびがびになっちゃう。
ブラも外さないと窮屈で、いい睡眠が得られないのに……。
頭ではそう考えていたけど、体は正直だった。
私はベッドに横になってすぐ、ぐったりと眠りこけてしまった。
読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマもありがとうございます。
ようやく美咲の29歳最後の1日が終わりました。
ここまでくるのに、まさか80話近くかかるとは。
びっくりです。




