78.女でも、美人の困り顔には弱いものですが
「それは、私も考えましたが…。私が鍛えているようには見えないから、もし私が何らかの悪事を働こうとしても自分で対処できると思ったのかなぁと思っていました。私に対してのほうは確かに、レイは、頼る人のいない私を家に泊める提案をしたことを卑怯かと気にしていたみたいですが」
さすがというべきなのか、ダイアモンド様はレイが悩んでいたこともお見通しみたいだった。
私がここへ来るまでの道のりを思い出すと、ダイアモンド様は得たりとばかりにうなずいた。
「でしょ!?あいつはそういうやつなのよ。なんでもできるし、癒し人だし、ほんとならなんにも困ることなんてないはずなのにさ。真面目だし、身分もあるから、なんでもできるせいでかえって気苦労ばっかり背負ってるの。いっつも貧乏くじ引いているっていうかさぁ。まぁそれは私たちのせいもあるんだけど…」
ダイアモンド様はふと表情をかげらせて、ぽつりと言った。
私たち?
それってダイアモンド様と、あとは誰のことだろう。
お屋敷の方かな?
それとも領民の方たちのことかな?
一瞬前までの自信満々な態度から急に落ち込んだダイアモンド様は、はなかなく見えて、放っておけない気分にさせられる。
美人は得だなと思いつつ、私はダイアモンド様の手をそっと取ろうとした。
だけどダイアモンド様は一瞬はやく復活し、
「それはともかく」
と私の目をじっと見ながら、言う。
「普段のあいつなら、美咲さんは頼りになる女性のおうちにでも預けると思うの。それか傭兵を雇っているような高級ホテルにでも預けるか、ね。私でも二、三の心当たりはあるし。女性に対する対応なら、そっちのが適切なはずなのよ。なのに、レイはあなたを家に連れてきた。この意味、わかる?」
ダイアモンド様はきらきらした目で、私を見る。
どうしよう、期待しちゃうじゃないか。
私は往生際悪く、苦笑いでダイアモンド様の質問をかわそうとした。
だけどダイアモンド様は私の手をがしっとにぎり、宣言した。
「あの真面目で他人のことばっかり考えている男が、よ。あなたに迷惑になるかもって考えても、どうしても手放したくなかったってことだと思うの。私、あいつには迷惑いっぱいかけているから、あいつがそんなふうに思う相手のことは、絶対にひきとめたいって思ってる」
「……は、はい」
「だから覚悟しててね、美咲さん。絶対に逃がす気はないから。とはいえ、べつに何かするってわけじゃないから安心して。ただ私は、この世界とレイの傍が居心地いいって思ってもらえるように努力するだけ。だから遠慮なく、不満があったらなんでも言ってね」
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