73.リアルメイドさんにテンションはあがりますが
ずーっと我慢していたトイレを無事にすませ、よろよろとベッドルームへと戻る。
ラナンキュラスの間は、ベッドルーム、化粧室、バスルーム、トイレがついているかなり広いお部屋だ。
お屋敷の中心部であるこの棟にあるお部屋は、ほとんど家族が使うため、東棟のお客様用客室とは違って応接室がないんだって。
ごめんなさいってダイアモンド様に言われたけど、じゅうぶん広いですよー。
どうせ来客なんてないしね。
ベッドルームの端にあるソファに腰をおろし、手に持っていたバッグをローテーブルの上に置いた。
たぶんハキさんが早々に用意してくださったんだろう、お部屋はじゅうぶん暖かくなっていたから、ダウンコートも脱ぐ。
顔を洗って、お化粧落とさなくちゃ。
お化粧自体は汗と涙でほとんど落ちている気がするけど、汗と涙を落としたい。
って思うけど、体が泥のように重い。
ぽやーっと窓の外を眺める。
暗い中に、まっすぐ光の列が見える。
あれはさっき通ってきた門への道かな。
あーベッドで寝たい。
だけどダイアモンド様たち、戻ってくるって言ってたよなぁ。
バッグからペットボトルを取り出し、残りのカフェオレを飲む。
あまったるい味が、体にしみこむようだ。
これ全部飲んじゃったら、次にこれを飲めるのはいつになるんだろう。
また泣きそうになった時、とんとんとノックの音がした。
私はあわててバッグにペットボトルを戻すと、「はい、どうぞ」と応える。
ドアを開けたのは、黒のシンプルな膝丈ワンピースに真っ白なエプロンと、お飾りみたいな小さなキャップをかぶった女の子だった。
メイドさんだ!
涙がひっこみました。
現金だけど、リアルなメイドさんだもん。
テンションあがるよね!
しかもまだ20歳そこそこの赤毛の美人さんだ。
メイドさんは私を見て一礼すると、さっと横にずれた。
その後ろからダイアモンド様がひょこっと顔をのぞかせる。
「美咲さん、軽いお食事を用意したんだけど、入ってもいい?」
「あ、はい!ありがとうございます」
ダイアモンド様がうなずくと、メイドさんは廊下に置いてあったらしいワゴンを押してきた。
ワゴンの上には、ポットと2人分のカップ、サンドゥイッチとスープに焼き菓子が乗っている。
メイドさんはてきぱきと暖炉の近くにあるテーブルに食事を用意してくれる。
ダイアモンド様は椅子に腰をおろし、私にも座るように促した。
読んでくださり、ありがとうございます。




