72.口には出せませんが、大切なことなのですが
今回トイレ話です。
お食事中の方はご注意です。
「お手洗い?……あぁ!」
ダイアモンド様は一瞬きょとんとした後、大きくうなずいてくれた。
「ごめんごめん。先に案内すればよかったね」
言いながら、ダイアモンド様は私の手をひいて、バスルームの隣へと案内してくれた。
そこは案外広い…だけど、そこにあったのは、見慣れた洋式のトイレだった!
ライムグリーンの壁と白い大理石の床の真ん中に設置されているのは、ごく一般的な洋式のトイレだった。
日本の我が家にあるものとの違いは、すこし座面が高そうなのと、蓋が見当たらないこと、ウォシュレットなんかのボタンがないことだろうか。
だけど、そんなの些細なことだ。
よかったー!!
全力で叫びたくなる。
だってトイレがあるんだよ?
道に汚物が落ちていなかったから、ツボやおまる的なものに用をたして窓から捨てるっていう昔のヨーロッパ式のトイレじゃないのは薄々察してた。
でも汚物を窓から捨てる習慣はなくても、ツボ的なものを渡されるかもって不安はあったんだよね。
それをメイドさんとかに回収してもらって…って話だったら、ほんと泣くよ?
いや泣きたいのは、メイドさんだろうけどさぁ。
でもでも、ソレを他人に見られるとか、精神的にキツいよね?
ほんっとよかったよー!!
「使い方、わかる?そこに座って、用をたして、あとはこの紐をひっぱるだけだから」
「わかりました!」
力いっぱいうなずくと、ダイアモンド様は私の切羽詰まった状況を察してくださったらしく、つつっとお手洗いから出られた。
「えっとー。ちょっとメイドの様子を見てくるね」
「はい。私はちょっとここで…」
「うん。レイもいったん部屋で着替えさせてくるわ。もうちょっとしたらメイドがお茶を運んでくると思うから、その頃戻ってくるね」
「あ、じゃぁお見送りをします」
「いいってー。うちの中だもん。ちょっとトイレとかお風呂とかの使い方を試していて?」
ダイアモンド様はそう言うと、軽やかな足取りでドアを閉めてくださった。
口元が笑っていたのは、ご愛嬌ってやつだ。
私、そうとう必死な顔をしていたんだろうなー。
と思いつつ、速攻荷物をおろして、用をたしました。
もうちょっとで人間の尊厳が危険にさらされるところだったわ。危ない危ない。
我慢していたものを解放して、ふぁっと息をつく。
教えられた紐をひくと、水が流れ、便器の中が綺麗になった。
水洗トイレだ。
よかった。ほんとよかった。
元の世界に戻りたいって気持ちはもちろん変わらないけれど、この世界は思ったより住みやすいかもしれない。
それは、ほんとうに救いだった。
読んでくださり、ありがとうございます。
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