65.まだ失恋の覚悟なんてないですが
思わずダイアモンド様の手を振り払って叫んでしまった。
無礼だけど、許してほしい。
だって、
「私は異世界の人間ですよ!?レイともさっき知り合ったばかりですし!!」
私としては、これでこの話は終わりだと思った。
だってレイはこの世界では有数の貴族の家の人間で、元当主で、今もなにやら偉いらしい聖騎士だそうだ。
そんな人間が身元も怪しい女と結婚なんてするだろうか。
たとえ本人が望んだところで、貴族社会的に許されるのだろうか。
時代小説や王家アリの少女小説の定番だよね、身分違いの恋のために周囲に反対されるって。
まっさきに反対すべきレイの肉親が、まっさきに諸手を挙げて賛成するなんて、おかしいよ!
そういうことをつらつらと述べたけど、ダイアモンド様はきょとんとして手を振った。
「あー、そういうのぜんぜん問題ないから。レイは美咲さんが好き。美咲さんもレイのことを好いてくれているんでしょ?だったら問題ないの。癒し人の結婚は、聖なるもの。お互いがお互いを望んでいるのに、それを咎めたり軽んじたりすることは、王様にだって許されないことだから」
おふぅ。癒し人って、そんな存在なの!?
婚姻に関してのみとはいえ、王を筆頭に誰からの干渉も受けないなんて、むちゃくちゃ特権階級じゃないの。
ふつうの人っていうより、神に近い存在なのかなぁ。
「えっと。いやでも、そもそもレイが私のことを好きっていうのが、ダイアモンド様の勘違いなんです」
ダイアモンド様の勢いに流されそうになったけど、根本的に前提がまちがっているんだよ!
私も立ち上がって抗弁すると、ダイアモンド様は心外そうに言い放った。
「なに言ってるの。私とレイは双子なんだよ。レイの考えていることなんて、お見通しだっての。ねぇ、レイ。あんた美咲さんのこと好きでしょ」
や、やめてええええええええええええ!
さっき自分の気持ちを自覚したところなのに、速攻失恋なんて哀しすぎる。
ましてしばらくこのお屋敷にお世話になるのだ。
顔を合わせる機会も多いのに、気まずいじゃないか。
背中にへんな汗が流れる。
レイのほうを見るのがこわくて、視線を目の前のダイアモンド様に固定し、コートの袖をぎゅっと握る。
「や。まぁ、よー。嫌いじゃねぇけど。結婚とかはないぜー」
ほ、ほらね。やっぱり。
レイは優しいから「嫌いじゃない」って言ってくれている。
迷惑かけ通しなんだし、それでも十分にありがたいよね。
そうわかっている。
でも、やっぱりキツい。
ふつうにしていなくちゃおかしいと思われる。
だけど私の視線は下に落ち、ぐっと奥歯を噛みしめた。
こんなことで、泣くわけにはいかない。
出会ったばかりの人なのだ。
一瞬、恋に落ちただけ。
泣くほどのことじゃない。
読んでくださり、ありがとうございます。
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