64.結婚は「まだ」していないだけですが
ダイアモンド様は何度も頭をふり、それから考えることを放棄したように、ソファの背に身を投げた。
言われてみれば、私にも自分のいた世界が奇妙に思える。
さっき私は勉強をするのは義務だと説明した。
国の観点でいれば、国民が有能になることは国益にかなうと。
だけど大学まで勉強を重ねても、私みたいに糊口をしのぐのもあやしいという人間もすくなからずいる。
もちろん安い賃金で使いつぶすにしても、その人間の教育レベルが高いほうが使いやすくはあるのだろうけど。
……って、考えると悲しくなるので、考えないでおこう。
私もダイアモンド様に倣って、頭をおおきくかぶる。
するとダイアモンド様はつと立ち上がって、手を打った。
「そうだ!大切なことを聞き逃すところだったわ。美咲さんはまだ親元にいるってことは、ご結婚はしてないのだよね?」
「あ、はい。まだ」
くぅう。
ダイアモンド様は喜色満面で、私のいちばんつつかれたくないところをつつく。
微妙な見栄で「まだ」を強調すると、ダイアモンド様はぐっと身を乗り出して、さらに尋ねてくる。
「まだ?決まった恋人はいるの?」
「……いません」
なんて傷口に塩発言なんだ。
年下の美女に、30歳の女が結婚もしてなければ恋人もいないことを白状させられるってもう罰ゲームみたいなものだよね。
とはいえ、今の現状からいえば、私に夫も子どももいないことは救いともいえる。
だって異世界なんかに飛ばされて、むこうの世界では私は謎の失踪をとげているわけじゃない?
パスポートは空港で爆発にあったときにあちらに置いてきたみたいだから、たぶん私のことは、死体のない死として処理されていると思う。
でもパスポートが爆発で解読不可能になったりしてて、身元が判明しなかったら?
謎の失踪をとげた妻・母ってことになる。
きっと私のことを心配しているうちの両親や妹には悪いけど、成人した娘がいなくなるのと、誰かのお母さんが失踪するんだったら、断然前者のほうが傷は浅い気がする。
私のコンプレックスからくる被害妄想かもしれないけどさ。
ところで、レイはどうしたんだろう。
ダイアモンド様と私をじっと見ながら、じっと考え込んでいて、話にも入ってこない。
ちなみにバドーさんとハキさんは、最初は目を白黒させていたけれど、途中から置物のように無言だ。
彼らがなにを考えているのかは、想像するのも怖いです。
「ああ!そうだよね、美咲さんはレイと結婚するんだもんね」
ダイアモンド様は歌うように言って、私の手を取った。
「美咲さんが異世界から来たなんて聞いちゃったから、ちょっと話がそれちゃってごめんね。で、結婚式はどうするんだっけ?」
「ええええええええええええええええええええええええっ!?いままで話を聞いた結果がそれですか!?」
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