63.理想と現実はたいてい乖離するものですが
3/31 義務教育期間が間違っていましたので訂正しました。
お知らせありがとうございました。
「十分だよ…」
ダイアモンド様はげんなりしたように言う。
「それ9年で学ぶの?そうとうハードじゃない?」
「9年で学ぶのは基礎の基礎ですね。それ以降も勉強を続ける人は多いです」
「基礎の基礎って言っても…。国民のほとんどがそれだけの知識があるんでしょ!?能力的に可能っていうだけでも、驚くんだけど」
「美咲は、何年くらい勉強したんだ?」
「私ですかー。私は義務教育の9年間に加え、高校、大学と参りましたので、16年間ですね」
「16年……」
レイは愕然として、私の言葉を繰り返した。
ええ、16年も学校に通っていましたよ!
なのに正社員になったこともない大人で、ほんと申し訳なく肩身が狭いなう。
「美咲、ほんとに賢者とか特殊な職業じゃないの?」
「ほんとうに普通の人間ですよ。……というか、むしろ無益な人間といいいますか。定職にもつかず、親の家に住み、いい大人なのにいまだ親に養われているようなもので」
「なんだー。じゃぁやっぱり美咲は平民の中でも特別なの?そういえば最近、商人の中でも裕福な家では娘には貴族の娘みたいな生活をさせているけど、ああいう感じ?」
買いかぶられても困るので、自虐的に言うと、ダイアモンド様はむしろ納得したようだった。
そうか。
資本主義で子どもの数の少ない日本では、労働者人数の低下は即国力低下につながる。
それゆえ男女ともに労働可能なら働く、それも従順かつ有能な正社員が望ましいという社会通念をがっつり植えつけられている。
だけど日本でも数十年前なら、それなりのお嬢様は学校卒業後は働かず、お稽古ごとなんかをして花嫁修業といっていればいいっていう時代もあった。
むしろ働くのが悪とされていた時代もあったはずだ。
まぁそういう時代なら、女はさっさと嫁いでいるはずなので、私の年齢で未婚・子どももいないっていうのは、今の私よりそうとう針の筵だと思うけどさ。
「ぜんぜん違います。私の生家はそれなりに裕福ですが、子どもが働かずとも食べていけるほど裕福ではありません。私も働いていることのほうが多いのですが、期間限定で雇われているんです。優秀な人は高度な職業につくために、生涯勤められるタイプの雇われ方をします。私は、その程度の人間なんですよ」
「16年も、そんなにいろんなことを勉強したのに?」
「ちなみに16年勉強する人は、国民の約半数。12年なら、95%です」
「ふぇ。なんかさー、おかしいよね。それだけ勉強して知識のある人間が高度な職に就けないって」
読んでくださり、ありがとうございます。




