61.つたない一般論しか語れませんが
学ぶ理由ねぇ。
机上の学問はけっこう好きだったから、理由なんて考えたことなかったな。
好きなのとできるのは別だから、成績はよくなかったし、理数系はさっぱり理解できなかったけど。
与えられた問題をせっせと解いたり、過去の歴史や見知らぬ文化を知るのは楽しかった。
とはいえ、なぜそんなにさまざまなことを学んでいたかと問われれば、大半の学生と同じ回答なんだけどね。
勉強が義務だから。
しないとダメだから、する。
それがほとんどの学生にとっての「勉強」だと思う。
でもレイたちにそんなことを言ってもわからないだろうし。
子どもたちを「学ばせる」大人側の論理をちらっと言ってみる。
一般論だと思うけど、自分の意見がはいっちゃってる気もして、自信がなくなる。
ついつい疑問形にしてごまかせば、ダイアモンド様がきらりと目をかがやかせて、
「なんで疑問形なの?」
とちゃかすように言う。
なんかこの人もかわいい感じなんだよなぁ。
見た目は美人さんなのに、いたずらっこみたい。
こんなとこもレイに似ているのかもと考えていると、レイは腕を胸の前でくみ、じっと虚空を見つめていた。
そして「ねぇねぇ」とはしゃいだ声をあげるダイアモンド様を目で静止し、私を見て言う。
「それは美咲の意見なのか?それともそっちの世界の常識なのか?」
「半分ずつでしょうか。私の世界ではそれなりに支持を得ている考えかただと思いますが、違った意見をお持ちの方もいると思います。……ごめんなさい、私もさほど詳しくなくて」
『なぜ勉強は必要だと思いますか?』なーんてアンケート、けっこう採られていそう。
新聞とかで見たことあるかもしれないけど、ぜんぜん覚えてない。
こんなことになるんだったら、もっとしっかり見ておくんだった。
レイの真剣さに押されてまごつくと、レイはちょっと顎をひき、
「美咲の意見でいい。もうちょい具体的に聞かせてくれるか?」
「えーっと。一般的に、歴史の勉強は、過去を知ることでよりよい未来を考えるためというのがよく言われます。地理は世界の多様性を知り、視野を広げたりするためでしょうか。それに世界の仕組みを学ぶための基礎知識になりますし」
「生物の体の仕組みや物質の構造なんかも学ぶんだよな…。まるで賢者だな」
「ヤバいよねー。それで外国語まで学んでいたら、王族レベルじゃない?」
「あ、外国語も学びますよ。残念ながら、わが国では苦手な人が多いんですけどね」
「平民が外国語まで勉強するの?!それって国は何を目指しているの!?」
ダイアモンド様が悲鳴のように叫ぶ。
レイは暖炉にもたれて、深々とため息をついた。
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