59.文字も本も読めますが
癒し人は、地球にもいたかもしれない?
ダイアモンド様にそう尋ねられると、自信がなくなった。
ほんとうに地球には癒し人がいないんだろうか。
地球にも癒し人はいたけど、各国の首脳や一部の偉い人たちしか知らないってこともあり得るかも。
だって、自分の体をベストな状態でとどめられ、周囲の人を癒すことすら可能な人間が存在するなら、それは人類の夢だ。
秦の始皇帝の昔から、ううん、きっともっと大昔から現代のクローン研究にいたるまで、不老不死を追い求める人間は後をたたない。
癒し人は不死ではないらしいけど、それにしたって大きな希望になるに違いない。
癒し人なんて存在が本当にいるのなら、彼らは集められて研究材料にされちゃっているのかもしれない。……おそらくは、秘密裡に。
一瞬三流映画のような展開を思い浮かべたけど、すぐにそれはないなと考え直した。
「確かに、私のいた世界にも癒し人がいるという可能性はあります。でもその可能性は低いです。癒し人の存在が突然変異で生じたのではなく、古来からずっと人間の一種として生きてきたなら、おそらく私たちはその存在を知っていると思うんです」
「ずいぶん自信があるんだ?悪いけど、美咲さんて普通の平民なんだよね?自分の世界のことでも、あんまり知らないんじゃないかな。文字は読める?」
「はい」
「へぇ。じゃぁ、本も読める?読んだことある?」
「はい。よく読みます」
趣味は少女マンガや小説を読むことだけど、他の本だってけっこう読んでいる。
思わず、力強くうなずいてしまった。
「ふぅん。なら多少は自分のいた世界のことも知っているのかな?本って、何冊くらい読んだことある?誰か世界の成り立ちについて教えてくれるような知識人が近くにいたりした?」
ダイアモンド様は矢継ぎ早に質問をぶつけてくる。
けれどその態度は意地悪や皮肉なものではなく、純粋に興味からのもののようだった。
私はレイに説明した時を思い出し、頭の中で整理しながら答えた。
「私が生まれた国では、国民はすべて教育を受ける権利を有しています。大人は子供たちに教育を受けさせる義務を負っています。そのため子供たちは最低でも9年間、社会で生活するための基本的な知識を学ぶんです。教育内容は、言語や計算などのほかに、歴史や地理、生物の体の仕組みや物質の構造も含まれます。だから癒し人が昔から存在したなら、教わっていると思うんです」
100%の自信があるかと訊かれたら、答えは否だ。
だけど、昔から癒し人が地球に存在したなら、人々の目からその存在を隠すのは難しいと思う。
伝承や伝説の中なら、歳をとらない人や、他人の怪我や病気を治す人は存在するけれど、彼らの存在は「奇跡」だ。
奇跡は、めったにありえないからこそ「奇跡」なのだ。
少しは可能性があったとしても、こちらの世界のようにそうそう癒し人がいたとは思えない。
納得してもらえたかなとダイアモンド様を見ると、ダイアモンド様は目を丸くしてレイを見ていた。
読んでくださり、ありがとうございます。
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