56.自分付のメイドさんなんて、必要ないですが
バドーさんとハキさんは、レイの前で座ることに抵抗があるらしく固辞していたけど、レイの強い勧めに従って、しぶしぶソファに腰をおろした。
「話というのは、彼女のことだ」
レイは私の肩に手を置き、ダイアモンド様、バドーさん、ハキさんの順に視線を送った。
みんなの視線が、私に集中する。
肩をレイに抑えられているから立ち上がれなかったので、私は微笑んで目礼した。
「その前に…。ハキさんには紹介がまだだよな。ハキさん。彼女は伊坂美咲。しばらく家に滞在してもらう」
「伊坂美咲です。よろしくお願いします」
ハキさんは一瞬、嬉しそうに顔をほころばせ、それから暖かな笑顔で私に言ってくれた。
「初めまして、伊坂さま。わたくしはこちらのお屋敷で家政婦を勤めますハキと申します。伊坂様はご自分の侍女などはお連れですか?」
「いいえ。私は一人で参りました」
「ではメイドをお付けいたします。後でご紹介させていただきますが、なにかご不満がございましたら、わたくしにおっしゃってくださいませ」
ハキさんは立ち上がり、私に頭を下げた。
「メイドさんですか…?」
おおおおおおお。そりゃ執事がいるお邸だもん、メイドさんもいるよね。
リアルメイドさんとかどきどきする。
だけど自分につけてもらうっていうのは、ちょっと申し訳なさすぎる。
「あの、ですが、私にメイドさんをつけていただく必要はないんです。私は……。レイ、説明をお願いできますか?」
レイの客人だと思われたままメイドさんをお断りするのは、この世界では難しいことなのかもと気づいて、レイの顔を見る。
レイはとまどった顔をしたハキさんに、小さくうなずいて、言った。
「ハキさん。美咲はこう言っているが、メイドはつけてくれ。できれば、メアリーをつけてくれるか?メアリーなら度胸もあるし、メイドの中でも影響力がある。安心して美咲を任せられるんだが」
「かしこまりました。ではメアリーの仕事はこちらで割り振りいたしますわ」
「ありがたい。たぶん美咲の滞在は長期になる。必要なら、メイドを増やしても構わない」
「そんな、レイ!そこまでしていただくことはできないです」
ハキさんに申し伝えるレイの言葉に、私は不作法を承知で割って入った。
「私は、ふだんはメイドさんの手を借りるような生活をしていません。こちらの…生活様式には慣れていませんので、数日は誰かが教えていただければ嬉しいですが、新しくメイドさんをお雇いになる必要なんてないです」
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