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53.恋なんてするつもりなかったのですが

「なに二人して、びっくりしてるの?婚約したんだよね?じゃぁ結婚式はどうするってなるでしょ?いろいろ準備とかもあるんだしさぁ」


「だから、ダイアモンド。お前もちょっと人の話を聞けよ」


レイは頭を抱えながら、ダイアモンド様の発言を止める。

ご機嫌に指をふりまわしていたダイアモンド様は、レイの態度に肩をすくめ、私へ謝罪した。


「ごめんねー。こいつさぁ、小さい頃から騎士見習いとして勤めててさ。むさくるしいおっさんばっかの中で育ったから、女の子の扱いとか最低なの。邪険にしているみたいだけど、照れてるだけだから。気にしないでね」


「いいえ、そんな…。レイはいつも優しいですし」


「美咲さんって、ほんといい子だねー。レイの態度って、さっきから見ているとひどいと思うよ。怒っていいよ?」


「いえ。本当に。レイは」


優しい。

魔獣から助けてくれて、足手まといの私を保護してくれて。

異世界から来たなんていう突拍子もない話をしたのに、帰る方法を探してくれるつもりで。

素性もわからない女なのに、家にまで泊めてくれようとしている。


だけどこの話を、どんなふうにダイアモンド様に伝えていいのかわからない。

レイがどんなふうに説明するつもりかわからないし。


だから私は言葉に詰まってしまい、ただじっとダイアモンド様の顔を見つめた。


ダイアモンド様は、レイによく似ている。

男女の違いがあるから、見間違えるほど似ているというわけではない。

それでもけぶるようなまつ毛にかこまれた猫のような目、すっと通った鼻筋。

目の色は、違う。

レイがアメシストのような紫の目で、ダイアモンド様はサファイアのようなブルー。

じっと見ていると、吸い込まれそうな青い色だ。


ダイアモンド様は、ほっそりしたその手で、私の頬に触れてきた。

そして両手で私の頬を包み込み、じっと私の目を覗き込む。


「うん。ありがと。貴女もレイを好きでいてくれているってことは、よくわかったよ」


耳元で、ささやくようにダイアモンド様が言う。

私は、ふいに泣きそうになった。


ダイアモンド様はなにもわかっていない。

私はレイの婚約者じゃないし、いま黙ってしまったのも、自分の状況を説明できないからなだけ。


だけど、それなのに、この人は私が見ないふりしようって全力で否定していた気持ちを言い当ててしまった。


私は、レイが好きだ。


認めてしまえば、それはすとんと胸の中に落ち着いた。


会ったばかりだけど。

異世界の人だけど。

釣り合うなんて思えないけど。


でも、そんなの関係なく。

レイのことが、好きなんだ。

読んでくださり、ありがとうございます。

珍しくリリカル回でした。

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