51.婚約(嘘)がおおやけになっているみたいですが
レイも、おうちの決めた人と結婚するのかなー。
胸が痛い。やばいって。
レイが家の決めた人と結婚するんじゃなくても、私にチャンスなんてないし。
私だってさっさと元の世界に戻るんだから、チャンスなんてなくていいんだし。
なのに、レイが誰かと結婚するなんて想像しただけで、胸が痛むとは何事だ。
思わず俯いてしまった私をかばうように、ダイアモンド様は私の隣に立って、レイを睨む。
「あんたねー。私の前だからって照れて婚約者に冷たくするとか、最低だよ?そんなんじゃすぐに嫌われるって断言するわ」
「は?お前なに勝手なことを言ってるんだよ!つーか、なんで婚約者って…!」
「はぁー?軍部から連絡が来たんですけどぉ?レイが連れている女の子、婚約者だって連絡が来ているけど本当ですかってね」
「マジかよ…。あいつら連絡はやすぎるだろ。で、ダイアモンドはなんて答えたんだ?」
軍部からの連絡って、さっきの門兵さんたちからかなぁ。
レイは門兵さんたちに、私の存在を軍の人たちに伝えるよう命じていたんだっけ。
その照会が、もうお屋敷に着ていたのか。
はやいなー。
「一応、はいって答えておいたわよ。何も知らないのに、ね。感謝してよね」
「ああ…。つーか、あいつらマジ対応はやすぎだろ」
「レイの婚約なんて、街の一大イベントじゃん。軍部の連中だって、速攻確認してくるよ」
「一大イベントってなんだよ。大げさすぎるだろ」
「あんたはほんと、ブロッケンシュタインの人間としての意識が低すぎ。仕事だけじゃなくて、社交面もおさえられなくちゃダメなんて当たり前のこと、いまさら言わせないでよね!」
ダイアモンド様は腰に手をあてて、レイをしかりつける。
レイはむーっと悔しそうな表情で、言い返す言葉もなくふてくされる。
こうして見ていると、双子なのに、ダイアモンド様は「お姉ちゃん」だ。
レイの言動が一気に子供っぽくなるのも、見ていて笑える。
だけど、レイの婚約って……。
さっきの詭弁のことだよね?
つまり相手は私。
それが街の一大イベントって、どういうことなの!?
青くなって、レイを見る。
任せておけなんて言っていたけど、大丈夫なの!?
「ブロッケンシュタイン家の前当主で、現聖騎士のあんたがよ?婚約なんて聞いたら、そりゃみんな盛り上がるでしょうが。気の早い商人たちは、もうあんたの結婚式や披露パーティの関係に入り込めないか手回し始めているし、街の子たちも、お祭り騒ぎの準備を始めているみたいだよ」
ダイアモンド様の言葉に、レイはうめき声をあげて、頭を抱えた。
「冗談だろ」
「本気も本気よ。なによその反応。まさか婚約は嘘ってことじゃないんでしょ?」
「いや、それがその……」
そのまさかです。
婚約なんて、嘘も嘘。
私たちが知り合ってからまだ1日もたっていないし、関係といえば異世界迷子とその保護者ってだけだ。
口ごもるレイをいぶかしげに見つめながら、ダイアモンド様は確信的な口調で言った。
「だってレイ、その子のこと好きでしょ。見ればわかるわよ」
…………ええええええええええええええええええええええええ!?
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