46.お部屋が決まらないようですが
バドーさんは、執事への夢を裏切らない素敵な紳士だった。
髪も服も隙なく整えられていて、穏やかでいて厳格な雰囲気。
私が見惚れてしまったのも、仕方ないと思うんだ。
レイはそんな私を不審そうに一瞥し、さりげなく私の視界からバドーさんをかばおうとする。
心配しなくても、おたくの大切な執事さんに飛びかかったりしませんよー。
バドーさんは、50歳くらいかな。
年上ってあんまり興味なくて、上はプラス5歳くらいまでが限度。
バドーさんは、私の恋愛対象ではない。
でも観賞はしちゃう。
だってリアル執事で、夢を壊さない外見なんだよ。
はぁはぁなんて言わないから、観賞くらいさせてくれ。
と思うのに、レイは私とバドーさんの間に割って入って動かない。
正面に視線をやると、レイの背中しか見えなくなってしまったので、私は二人の会話を神妙に聞いているふりをしながら、そっとお屋敷の中に目を向けた。
「詳しい話は、ハキさんと一緒に聞いてもらおう。だが、その前に。美咲の部屋を用意してくれないか?疲れているだろうから、彼女を先に休ませたいんだ」
「かしこまりました。お部屋は若草の間でよろしいでしょうか」
わぁい。お部屋を貸してもらえるんだー。
しかも客室っぽい。
ほんと私ラッキーだわ。
頼る人もなにもない異世界で、お人よしのイケメンの手助けをがっつり得られるなんてね。
外見も中身も優れているなんて、レイってほんといい男だわ。
このお屋敷も、外も素敵だったけど、中も素敵。
玄関ホールでいちばんに目が行くのは、正面奥に見える大階段。
ホールは2階までが吹き抜けになっていて、2階の正面の廊下がテラスのように張り出していて、そこから左右に階段が半円を描くように降りている。
天井は黄金で飾られ、そこからは煌めくシャンデリアがさがっている。
そしてホールには、月の化身のような主と、有能そうな執事がいる。
はぅう。
ここが私のドリームを具現化した場所ですって言われても驚かないかも。
ついついあちこちに視線を飛ばしそうになるのをこらえつつ、レイたちの話を聞いているふりを続行する。
「いや、彼女の部屋は、俺の部屋の近くに用意してくれ。そうだな。ひなげしの間でいいだろう」
「恐れ入りますが、レイモンド様。ひなげしの間は」
どうやら、私の部屋をどこにするかで揉めているようだ。
若草の間とかひなげしの間とか言われても、それがどんなお部屋なのかわからない。
だけど、一人部屋の客室をお借りできるっぽい雰囲気で、すごくうれしい。
贅沢なんだろうけどさ、今日はすっごい疲れたもん。
一人部屋で、ベッドに横たわって、体と心を休めたい。
部屋にはそんなにこだわりなんてないから、さっさと決めてほしい。
なんて私が思っていると、レイはバドーさんの話しているのを遮って言う。
「バドー。彼女は遠方から来ているだ。不安も大きいだろう。傍にいてやりたい」
読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマも嬉しいです。
50話までにお部屋にたどり着けるといいなーと思っています。




