45.お屋敷には執事がつきものですが
「わ……ぁ」
暗闇の中にうかぶほの白いお屋敷に、感嘆の声が漏れた。
真っ白な石造りの壁に、青味がかかったグレーの屋根。
堂々たる中央棟と左右の翼棟はそれだけでも壮麗だけど、それをつなぐような位置にとんがり屋根の小塔がそびえたつ。
小塔だよ!?
お屋敷に小塔がついていると、一気にお城っぽく見えるのは私だけかな。
お屋敷のお部屋から洩れる明かりが、またこのお屋敷を幻想的な雰囲気に見せている。
「綺麗……」
思わず、ため息が漏れた。
「そりゃ、ありがとなー。古いから、近くで見ると粗もあるけどよー、うちのやつらはみんないい腕してるから、古い割には綺麗だと思うぜ?」
「そうなの……」
レイは使用人の方たちのお仕事を自慢する。
レイのそういうとこ、好きだよ。
自分の家で働いている人に礼と尊敬を持って接せられる人って、素敵だと思う。
だけどね、今はちょっと黙ってくれないかな。
私はこのお屋敷の維持環境に感嘆しているわけじゃなくて、この優雅なたたずまいに感動しているんだから。
まぁ、使用人の方々が日々お屋敷の維持に力を尽くしてくださっているからこそ、こんなに素敵なんだろうけどさ。
それにしてもこんな美しい建物を見てなんの感慨もないなんて。
いくら自分の家で見慣れているとはいえ、ちょっと納得いかない気分。
私たちは前庭の噴水を横切って、玄関へ続く階段を昇る。
カツンカツンとレイがノッカーをたたくと、ドアが中からさっと開いた。
「お帰りなさいませ、レイモンド様」
扉を開けてくれたのは、ぴしっと整えられた白髪が似合うダンディな男性だった。
恭しくレイに頭をさげるけれど、青い目は優しげに微笑んでいる。
「ただいま、バドー」
レイは挨拶を返すと、私を手で示した。
「ミサキだ。今日からしばらくここに身を寄せることになった」
「初めまして。伊坂美咲と申します。とつぜんで申し訳ございませんが、よろしくお願いします」
レイの紹介に合わせて、頭を下げる。
しまった。またやっちゃった。
癖って怖い。
人に挨拶するときは、ついつい頭を下げてしまう。
おそるおそる顔をあげ、バドーさんを見る。
けれどバドーさんはなんの動揺も見せず、初めと同じおだやかな微笑みをうかべていた。
うーん、これ、職業的な笑顔なのかしら。
レイに向ける視線は孫を見るような親愛がこもっているようにも見える。
だけど主人が風変りな恰好をした見知らぬ女を連れ帰っても動揺のかけらも見せないのは、訓練された職業人間っぽい。
ぜんぜん読めないや。
「伊坂様。わたくしはブロッケンシュタイン家で執事を勤めますバドーと申します」
リアル執事キター!!
慇懃に名乗られて、テンションがあがる。
読んでくださり、ありがとうございます。
ようやくお屋敷にたどり着きました。




