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40.心も体もぐったりですが

「馬車があるんですか?」


そもそも、門の近くには馬車なんて見当たらない。

馬の鳴き声や物音も聞こえないし、馬車があるようには思えないけどなと首を傾げた。


「すぐにご用意いたします」


私の質問を要望だと思ったらしく門兵さんが、動こうとする。

いやいや待って!


「いいえ、ご用意していただく必要はございません。……レイ様。玄関まで歩きますわ。ご案内お願いします」


「レイ様?」


こんな夜中にわざわざ馬車を用意させるとか、ないよねー。

お馬さんにもご迷惑だっていうの。

お邸のご主人さまであるレイが疲れててもう歩けないっていうならともかく、門兵さんたちの様子から察するに、レイはふだんは歩いているっぽいしな。

私のためだけに、夜中に馬ださせて車につけてって、余分な用事させるのは申し訳ない。


疲れてはいるけど、ふだんから歩くのは慣れているし。

いくら広いとはいえ、個人のお邸。しかも街中のお邸だ。

そう広くはないだろうとあたりをつけて、私は門兵さんを呼び止め、レイに案内を頼む。


ここで馬車を用意してくれるまで待つのも、疲れるしねー。

レイと二人で待っているならともかく、門兵さんが二人とも持ち場を離れるわけないし、となると異世界人だってばれないように気を使わなくちゃいけない。

それくらいなら、玄関までレイと二人で歩いてたほうがマシだ。

もうさっさと家の中に入りたいんだよ…。


なのにレイは、私の呼び方に眉をひそめる。


「美咲。レイって呼べっていったじゃねーかよー。今さら急に様づけとかやめろよ」


「……ええ。ごめんなさい、レイ。ご案内いただけますか?」


あーあ。

門兵さんたちが、主人のことを呼び捨てにする見知らぬ女を興味津々って顔で見てますよー。

服装もこっちの人のと違うしね。

どこの誰だって、内心いろいろ妄想しているんだろうなぁ。


街の門兵さんには「俺の婚約者だ」なんて紹介されたけど、レイが自邸の使用人に同じように私を紹介する気なのかわからない。

街の門兵さんから照会があったときのためなら、自邸でも婚約者扱いするほうがいいんだろう。

けど、自邸でまで婚約者って紹介すると、人間関係とかまずいかもしれない。

どちらとも判断がつかないから、とりあえず他の人にあわせて敬称をつけておこうという私の繊細な気遣いが無駄になったよ。


まぁ私には、この世界で気にしなくちゃいけない体面なんて、人間としての最低ラインしかないからいいけどね。

ここでレイに逆らって敬称づけしても門兵さんたちの好奇心を煽るだけだし、さっさとレイに従う。

そんなことより、さっさと家の中に入りたいんだよこっちは!

読んでくださり、ありがとうございます。

ブクマも嬉しいです。

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