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38.恋なんてしていませんが

本分中に出てくる心理学用語っぽいのは、

うろ覚えに、都合のいい解釈をプラスして書いたエセ知識です。


「ありがとな」


なーんてね、レイは照れくさそうに言う。

くっ、美形のはにかみ笑顔とか眼福です。ごちそうさまです。


辺りは、すっかり闇のとばりがおりている。

いつの間にかお邸が立ち並ぶエリアまで歩いてきていたから、高い塀とうっそうとした木々が家から洩れる明かりを遮っている。

街灯のささやかな明かりだけがあたりを照らす光源なのに、レイの銀色の髪は不思議に光を集め、輝いて見えた。


まるで、月の騎士さまみたいだ。


じゃなくて。

直視に絶えないレベルの美形を間近で見ているせいか思考がメルヘンに逃げようとしているけど、問題はそこじゃない。


レイはいま、俺が前にブロッケンシュタインの当主だった時、って言った?

当主って、いちばん偉い人のことだよね?

あれ、レイって26歳だったんじゃぁ……。

ああいうのって、もうちょい年上の方がつく地位じゃないのかなーなんて。


しかも「前」ってどういうこと?

今は違うの?

なんで当主やめたの?

やめさせられちゃったの?


どうしよう、疑問はいっぱい頭に浮かぶけど、なにを聞いても地雷になりそうで怖くて訊けない。

どどどどどどどうしよう?

って、どうもしないよね?


うん、レイは思っている以上に偉くてすごい人だけどさ、私には関係ない。

私は早々に、元の世界に戻るつもりだからね。


そりゃちょっと、ときめいちゃったりしたけどさ。

あれは恋の真似事をして、この緊迫した事態を乗り切ろうとした自衛本能みたいなもんだし。

吊り橋効果っていうの?

危険な状態にあったら、そのどきどきを恋だと錯覚するっていう、あれみたいなものだよ。

もしくはストックホルム症候群?

レイは私をこっちの世界に連れてきた犯人じゃないけど、異世界という私にとって現実と隔絶された広大な閉鎖空間で、今のところ頼りになるのはレイだけ。

自分の生殺与奪権を握られている相手に、高度に共感して親愛を感じるようになるのって、ちょっと似ているかなーって思う。


ただそれだけ。

この気持ちは恋とかなわけないんだから、レイが手の届かない人でも関係ないじゃん。

むしろレイが私を保護してくれている現況なんだからさ、レイに権力があればあるほど、私には都合いいんじゃん。


って理性では片づけられるのにね。

なんでか胸が痛い。

年下過ぎて、狙うのにはハードル高いとか思っていたけど、年の差以上に身分差みたいなのを感じてしまう。


身分というより、人間の格の差かな。

30歳目前なのに正社員にもなったことない私と、この街をふくむ(たぶん広大な)領を治めて、街の人のために働いていたレイ。

違いすぎて、狙うとか考えただけでも申し訳ないというか…。


はー。もう。

20代最後の一日がハードすぎてつらいわ。

コンプレックス、がりがり刺激されている。


俯いて黙りこくった私を、レイが不安げに見ている。

けど、ちょっとスルーさせてほしい。

あと少ししたら、心の整理をつけるから。


って思ったのにさぁ!!


「あ、ついたわ。ここが俺んちなんだぜー」


レイの言葉に顔をあげて、青くなったよね。

ええ、もう。想像以上の豪邸でした。

読んでくださり、ありがとうございます。


40話までになんとかレイのお家につけました。

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