37.活気のある街ですが
「ああ、まぁなー。そうありたいって思ってる。…なんつーかその。ありがとうな」
「へ?なんでレイがお礼を言うんですか?」
「お?あー、そっか。そうだよな、お前、異世界の人間だもんな」
レイはますます頬を緩めた。
むー。なんですか。私が異世界から来たっていちおう信じてくれたはずなのにさ。
さっきまでだって、だから門兵さんたちに手続してくれたはずなのに、そんなこと忘れてたみたいな反応だ。
ふつうそんな重大なこと忘れる?
「怒るなよ。お前が、俺が誰だか知らないで、この街を褒めてくれたこと、すっげぇ嬉しいんだからよー」
不服な気分が顔にでていたみたい。
レイは私の頭を撫でながら、言う。
微妙に子ども扱いされている気がするんだけど、気のせいだよね?
「どういうことですか?」
うすうす感づくものがあったけど、あえて聞いてみる。
レイは「えっとな」と照れながら言った。
「この街、俺の家の領なんだよ。ブロッケンシュタイン領ファーガス。ブロッケンシュタイン領の中心地だな」
「うわ」
予想は的中。
思わずうめき声をもらしてしまった。
だってこの街、そうとう大きいよ。
しかもパッと見ても、豊かで治安もいいんだろうなってわかる。
道を歩いていると、建物のほとんどの窓から、明るい明かりが漏れている。
通りから見える飲食店からは賑やかな声が漏れてきているし、街のいたるところに多くの人が生活している痕跡がみられる。
それでいて、街はすみずみまで整えられていて、この街がきちんと管理されていることがわかる。
あたりは暗いからよく見えないけど、道にゴミもほとんど落ちていないし、建物にも落書きもない。
昔のヨーロッパといえば…と危惧していたような、部屋からポイ捨てされたと思わしき排泄物が道にごろごろしている……なんてこともない。
そのうえさっきの緊急用の連絡機の話だ。
この領を治めているというのは、人格的にも手腕としてもそうとうデキる人だろうなって思う。
そんな人が一家の長をつとめる家の人間なんだと思うと、レイに対しても心理的な距離を感じる。
うわーと思っていると、レイはさらに追い打ちをかけた。
「緊急用の連絡機はよー、俺が前にブロッケンシュタインの当主だった時、領内の改革として薦めた計画だったんだぜー」
「はいいいいいい?」
ちょ、まって。
有能篤実っぽいブロッケンシュタイン家の人間だってことだけでレイに距離感じてたら、有能そうと評価したご当主さまがご本人だと!?
慄くわ。
レイはてれてれと続けてるけどな。
「予算とか利害関係でよー、いろいろ批判もあった案だったからな。今は街の奴らには認められているとおもうけどよ、それだって俺の前では喜んでみせているだけかもって不安は払底されたわけじゃねぇし。だからよ、異世界からきたっていうお前が、俺がこの街の改革に力を入れてたって知らないまま賞賛してくれたのは嬉しいんだぜー」
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