30.変わった服を着ているって指摘されましたが
私はフォローの言葉を思いつかず、ひたすら笑ってごまかそうとする。
門兵さんたちもぎこちない愛想笑いで答える。
お互いに笑顔なのに緊張感たっぷりである。
そんなシュールな雰囲気に割って入ってくれたのは、ひとり落ち着いているレイだった。
「そう恐縮するな。言っただろう、彼女は遠い異国の出身だと。いろいろとこちらとは習慣も違うのだ。彼女にとっては頭を下げるのは礼の気持ちを行動で表しただけなのだろう。お前たちを恐縮させて、困ってしまっているだろ」
「さようですか?」
「顔を見りゃわかるだろ。…ほら。彼女の服装も変わっているだろう?これがあちらの国の旅装なんだそうだ」
ぎこちなく追従笑いを浮かべる門兵さんに、レイは私の服装を示す。
今の私の服装は、ピンクのふわふわニットワンピに黒のタイツ。その上に紺色の上品めなダウンコートを羽織っている。
白い大き目のバッグを斜め掛けにして、足元はムートンブーツ。
日本ではごく普通の恰好だ。
こちらの世界に入ってからまだ女性の姿はみていないけど、レイや街の人は分厚いマントを羽織っている。
中に着ている服装ははっきりとはわからないけれど、マントの下からちらりと見えている限りでは、レイは詰襟の軍服っぽい服装。街の人たちはチュニックにベルトを締め、ホーズという長ズボンという感じだ。
現代日本の服装とは、ぜんぜん違うのは一目瞭然。
「確かに、イサカ様のお召し物は見たこともないような不思議なものですが」
お髭の門兵さんは私から視線をそらし、レイに向かってたしなめるように言う。
「ブロッケンシュタイン様。女性の服装を示すのに変わっているなどと言われましたら、同意するのはためらわれます。意味合いは、異国のものだから我が国とは異なっているという意味だとわかりますが。…仮にうちの妻にそんなことを言ったら、数日は口もきいてもらえませんよ」
「あー。って、悪い!そ、その。その恰好がヘンだって言うんじゃねぇぞ?よく似合っているし、不思議な恰好だけどよー、悪くねぇと思う!ただ、ここの衣服とはまったく違うから、お前が遠くから来たってわかりやすいとおもっただけで!」
「こちらの服装とはだいぶん違いますよね。変わっていると思われても当然だと思います。ご不快でなければいいんですけど」
レイはまた失言をしたと思ったのだろう。
やたら焦って、私に言い訳する。
口調まで二人きりの時と同じになっているって、どれだけ焦っているんだ。
せっかくの貴族ぶりっこが台無しだぞ。
私は恐縮したままの門兵さんに笑いかけ気にしてないことをアピールし、レイに向かって首を傾げた。
「この格好、おかしいと思いませんか?」
閲覧、ブクマありがとうございます。
30話です。
毎日1話ペースで更新しているので、そろそろ書き始めて1か月たちます。
読むこと以外では飽きっぽい私がこんなに続けられているのは、読んでくださる皆様のおかげだと思います。
本当にありがとうございます。
まだまだ続きますが、これからもお付き合いいただけると嬉しいです。




