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3. 獣に食われそうですが

ブクマ、ありがとうございます。

小躍りしています。

白い大きな獣は、捕食者の目で私を見ていた。

飢えた獣の視線にさらされ、私は死を予感した。

本日、2度目の死の予感だ。


そういえば、私、さっきの爆発では死ななかったんだな。

なぜか爆発直後に体中を襲った激痛も、今は消えている。

ほんとなら、助かったんだって喜ぶべきなのかもしれないけど、この状況じゃそれもできない。

なんで自分がこんな森の中にいるのかわからないけど、自分を狙うその獣から、逃げられる気はしなかった。

これだったら、まだ爆発に巻き込まれて死んだほうがマシだったかも。

私は恐怖にまけて、目を閉じた。


獣に生きながら食われるとか、ほんとやめてほしい。

せめて痛くないように、一瞬で死ねますように。

祈るようにつぶやく。

目を閉じていると、獣のうなり声が、耳の中に飛び込んでくる。

グルルといううなり声は、今まさに私たちに飛びかかってこようと構えているようだ。

カタカタと体が震える。

震えるたび口の中で、歯がかちかちと音を立てる。

その音すら、獣を刺激しそうで、こわくてたまらない。

奥歯を噛みしめて我慢しようと思うのに、ぜんぜん力が入らなかった。


恐い。

怖いよ。


固く閉じた目から、涙がこぼれるのを感じる。

すると、傍らに身をかがめていた男は、ちっと舌をならした。


「仕方ねぇ、か」


そういうと男は、私の耳元でささやいた。


「いいか、よく聞け。ちゃんと目を開けて、俺を見てろ。あいつを殺ったら、すぐ逃げるからな。そのつもりで、気構えていろ。俺がここに戻ってくるまでは、動いたり、叫んだりするな。約束できねぇんなら、お前は死ぬ」


低く艶やかな声に誘われて、私は目を開ける。

男は息がかかりそうな至近距離で、私の目を見つめていた。


逃げる?

逃げられるの?


男は私が目を開けたのを確認すると、今の言葉を保証するように、冷静なまなざしで私を見つめる。

男は身長こそ高かったが、すらりとした細身で、そんなに強そうには見えなかった。

けれど彼の態度は自信に満ちていて、あの大きな獣を倒すことに微塵の不安もなさそうだった。


私は彼の目を見て、小さくうなずいた。


あの獣を倒すなんて危険だと、彼を止めるべきかもしれない。

そんな考えが一瞬頭をよぎったけど、どちらにしてもあの獣が私たちを見逃してくれるとは、思えなかった。

私たちの目の前にあるのは、あの獣に殺されるか、あの獣を倒すか、ふたつに一つの運命だ。

そして、私には、あんな獣を倒すなんて、できっこない。


今ここで頼れるのは、この男だけだ。


死にたくない。

今まで生きてきて初めてといえる強い衝動が、体の底から湧きおこる。

それは平穏な日々では忘れていた私の生存本能だった。


「お願いします」


声を出さずに、唇の動きだけ訴える。

それが相手に伝わるかなんて、気にしない。

彼だけが、自分の命綱だ。

切迫した気持ちで彼の目を見て、視線で訴える。

「助けて。あなただけが頼りです」と。

男はアメシストの瞳を一瞬、大きく見開いた。

そして、私の目を見ると、安心させるように、私の頭をぽんぽんと叩く。


「いい子だ」


次の瞬間、男は伏せていた身を起こし、獣の前に踊り出た。

読んでくださり、ありがとうございます。

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