17.危機管理は考えたいのですが
海外で日本女子がやってしまいがちだけど、絶対にしてはいけないことのひとつが、見ず知らずの男についていくことだと思う。
国によって、その「見ず知らずの男」の行動は、情熱的に口説いて来るかもしれないし、親切に道を案内してくれるっていうかもしれないし、「親友」や「娘のよう」なんて言って「妻や娘に会わせたい」って家に誘われるかもしれない。
だけど、ついていったら危険だという可能性はいつだってある。
ただの親切やナンパ心かもしれないけど、強姦や脅迫、殺害される可能性はいつだって隣にあるわけで。
それは日本でも同じといえば同じだけど、自国の法律に守られ、言葉が完全に通じる場所と、異国人で言葉も通じない場所にいるっていうのでは、危険を察知した後の自分の行動の幅もぜんぜん違うし、周囲の態度も違う。
ぶっちゃけ被害にあっても、言葉も通じない外国人と、流暢に自分の立場を弁護する自国民だと、警察なんかの態度もぜんぜん違うしね。
外国でふらふら遊ぶのは好きだけど、危険という代償を大きく払うつもりはない私は、旅行も個人では完全には手配しない。
ヨーロッパの都市部は行き慣れているから、添乗員さんと一緒のツアーを頼むことはないけど、個人で手配したほうが安くても、飛行機やホテルは旅行会社にお願いする。
ふつうに旅行するには困らなくても、テロや災害が起こった時、あるいは病気や事故にあった時、ひとりで対処するのが怖いんだもん。
友達が暮らしている都市ならともかく、そうじゃないなら旅行会社っていう頼れる存在をつくっておくのだ。
でもって、その最低限の危機管理すらうまくいかなくっても、外国なら最後の砦「日本大使館」の存在がある。
ほんとに事件とか災害に巻き込まれたら、大使館に駈け込めばたぶんなんとかしてくれる。
なので、その場所はきっちり手荷物の中に控えてある。
何が言いたいのかって言うと、私の旅行って、いつも最低限の危機管理はちゃんとしているつもりだ。
危ないことはしないのがモットーなんです。
だからほんとうは、今だって、見知らぬ男の家にふらふらついていくのに抵抗がないわけじゃないんだよ!
だけど他にどうしろっていうんだ。
ここは、異世界。
日本の、いや地球のでもいいけど、大使館なんてあるかどうかわからない。
泊まるとこもなければ、どうやって宿泊すればいいかわからない。
ちょっとでも頼れそうなら、見ず知らずの男でも、頼るしかないんだよ!
「ごめんなさい…」
先を歩く男のマントをひいて、私は立ち止まる。
男は足をとめたけど、こっちを振り返ろうとはしない。
この人はぜんぜん知らない人で。
頼るのに不安がないわけじゃない。
だけど、頼れるのは、この人だけで。
「ご迷惑おかけしているのはわかっています。できるだけ、ご迷惑にならないようにしますから…。だから、見捨てないでください」
言った瞬間、男の腕に抱きしめられていた。
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