162.つい一人でなんとかしなくちゃって考えちゃいますが
内心でいやなことを考えたから、意識的に笑顔をつくってローズマリー様に尋ねる。
「うーん、じゃぁ、もうひとつ質問です。ローズマリー様。お友達に勧められて乙女ゲームが趣味になったんですよね?【王宮学校恋物語】以外のゲームもしていました?」
「そりゃ、してたわよ?かなりの本数をしていたわ」
胸を張って自慢できることなのだろうか…?
すくなくても私は、少女マンガいっぱい読んでます!って自慢はできないわ……。
若さか? 若さなのか?
でも、私としては20歳の時でも、こっち系のネタで自慢はできなかったぞ。
「ということは、【王宮学校恋物語】はちょうどそのころいちばんハマっていたというだけの思い入れなんですよね」
「そうなるのかしら。私の前世の生涯を通して、いちばんハマっていたゲームでもありますけど」
ローズマリー様が、重々しくうなずく。
その肩を、オットー様が愛おし気になでる。
……もうひとつ聞きたいことがあるといえば、ある。
ローズマリー様がいちばん思い入れのあるキャラがオットー様だったのかということだ。
そうだとすれば、彼の婚約者の位置にローズマリー様が転生したのには、なんらかの意味があるのかもしれない。
けれどオットー様のいるところでそれを聞いても、本当の答えが得られるとは思えない。
ほかに訊くべきことってあるのかなぁ。
いつの間にか自分に主導権がまわってきていたので、この際だから聞きたいことはぜんぶ聞いちゃうべきかと思う。
けど、私の頭も混乱しまくっていて、系統だって考えるとか、無理。
でも絶対、まだまだ訊かなくちゃいけないことがあるはずなのよ!!
ぎゅっと目を閉じて、集中して考えようとする。
けれど、頭の整理が追い付かない。
ぽん、と肩をたたかれた。
目を開けて、背後を見ると、レイがそこに立っていた。
紫の目が、私を見つめている。
「いったん休憩するか?」
「え?」
「ここから離れて二人きりになるか、ここで茶でも飲むか。好きなほうを選べよ。……焦らなくても、だいじょうぶなんだぜ?こいつらはしばらくうちに滞在するんだからよー」
とんとんと肩をたたかれて、肩の力がふぅっと抜けた。
言いがかりのようにローズマリー様が口にした私への疑惑を晴らすためにってささくれだっていた心が、やわぐ。
この世界が乙女ゲームの世界かもしれないなんて突拍子もない疑惑に怯えてひるんでいた心が、理性を取り戻す。
ここは異世界で、私の生きてきた場所じゃない。
けれどここにいるのは、私の知らない人だけじゃない。
たった一か月のつきあいだけど、私が好きになって、私のことを好きだって言ってくれた人がいる場所だ。
世界でたったひとりみたいに孤独な気持ちにならなくたっていいんだ。
……レイにいっぱい抱きしめられたいなって、思った。
いっぱいキスして、抱きしめて、そうしたら元気になれる。
だけど私はもうすこし、ローズマリー様と話がしたかった。
いくら彼らがしばらくレイの屋敷に滞在するからといって、またすぐに話ができるとは限らない。
ローズマリー様以外の方は、みんなお仕事で来ているんだし、ローズマリー様ひとりとお話するのは、さっきの激昂ぶりを見ていると、ちょっとこわい。
「お茶をお願いします、レイ」
肩におかれた手に指を重ねて、言う。
レイはいつものように、にっと笑ってバドーさんたちにお茶を用意するよう伝えてくれた。
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