161.時には若いというだけで嫉妬がめばえるお年頃ですが
「窓から落ちてって……」
それだけ聞くと、自殺や他殺って可能性も考えられるけど。徹夜状態だっていうなら、事故?
「ふらっとして寄りかかったら、窓ごと壊れたのよ!別に私が壊したわけじゃない……はず。あ、それに落下している時の記憶はあるんだけど、図書館でレポート書いているうちに寝ちゃっていたから、わたしが窓から落ちたのって、夜遅い時間だったの。うちの大学は女子大だから、遅くまで学生が残って勉強するのは禁止されていたし。だからその時間、生徒はほとんど残っていなくて、他の子を巻き添えにもしていないのよ!」
言い訳みたいに、口早にローズマリー様はつけ加える。
うん、他の人を巻き添えにしていないっていうのは重要だけど。
自分の死に際のこと、そこまで弁解口調で語らなくてもいいよ……。
ゲームしすぎで徹夜続きが原因で事故死って、言いづらいのはわかるけど。
それにしても、今世については私の存在を知っただけでパニックになっていたくせに、前世についてはあっさり語るなぁ。
さっきの動揺のしかたを見ていたら、ローズマリー様ってなにを聞いても動転する人かと思っていたのな。
前世の自分への執着というか、思い入れみたいなものが感じられない。
あくまで他人事って感じ。
生まれ変わるって、そういうことなのかな。
釈然としないけれど、ふんふんとうなずく。
「ローズマリー様が前世で20歳の時に【王宮学校恋物語】が発売されたというなら、私と前世のローズマリー様は同じ年齢だったんですね」
「そういえば、そうなるのね?」
こてんと首をかしげて、ローズマリー様は言う。
やわらかで艶のある髪が、さらりと揺れる。
19歳という年齢は、それだけで今の私からすれば羨ましい「若さ」だ。
全身からその特権を輝かせる彼女が、前世の命をそのまま紡いでいれば、今の私と同じ年齢だったのだと思うと、なんとも複雑な気持ちがした。
前世を20歳という若さで終えた彼女をうらやむ気も、30歳まで生きてこられた自分の幸福を無下にするつもりもない。
けれど、それでも、まだ若く可能性があふれる彼女の年齢と、その年齢でオットー様という愛し愛される夫を手に入れているローズマリー様の状況をうらやんでしまう気持ちが、ちょっとだけうずく。
ローズマリー様は、前世のご両親や友人なんかのことを思ったりはしないのかなぁ。
なんて、突然の望まない死を迎えた前世の彼女に対しして、意地の悪い考えがうかんでしまったのも、たぶんそのせいだ。
さすがにそれを口にするほど無神経にはなれない。
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