16.街まで歩いていますが
話がまとまると、私たちは連れたって街のほうへと歩き出した。
まだだいぶ距離はあるけど、街の外壁は見えている。
ぐるりと高くそびえたつ壁が外敵や害獣から街を守っている。
ヨーロッパでよく見るタイプの都市だ。……古いタイプの、だけど。
街までの道は石畳。
石畳っていっても、日本のレンガっぽい、表面がまっすぐに整えられたのとは違ってガタガタしているの。
でもこれも、ヨーロッパではよくあることだし、ムートンブーツなら余裕。
ハイヒールだと、穴にはまったりして危険だけどね。
日本の、アスファルト整備された道に慣れていると歩きにくいけれど、街の外にしてはいいほうだと思う。
月は、あいかわらず赤い。
だけど月の光はべつに赤くはなく、夕焼けのように地上が赤く染まるというわけでもない。
ただ少しずつその光は弱くなってきている。
夜が近づいてきているということらしい。
……なんてね。
いろいろ周囲に目を配って、歩いている。
これはこれで必要なんだけど、現実逃避な感じは否めない。
ほんとは、この世界についてわからないことばかりなんだから、半歩先を歩く彼に、いろいろ聞いたほうがいいんだろうけど。
ちらりと彼に目をやる。
木のうろでいったん休憩していた私と違って、ずっと獣と戦ったりしていたはずなのに、彼には疲れた様子はない。
端正な顔はまっすぐに前をみすえ、ほんのすこし開いた唇がなんとなく色っぽい。
きりっとした表情の彼は、すごくかっこいいと思う。
だけど街へと歩き始めた彼は、ずっとこんな風で、ちょっと前まで見せてくれたあの人の好さそうな笑顔や、照れたような表情は、見せてくれなくなっていた。
それどころか、ほとんど話すらしてくれない。
初めて出会った時からずっと、彼は見ず知らずの私に親身に話しかけてくれた。
その態度は気さくで、自分のことを頼れって優しくしてくれて。
なにもわからないこの世界で、そんな彼のことがどれだけ救いになっていたかわからない。
だけど今の彼は、私と一線をひくように、道を歩くときの注意事項を口にするだけだ。
そこにはあの笑顔も、軽口もない。
仕方ないんだ、と私は自分に言い聞かせる。
だって、私は自分がこの世界の人間じゃないって告白したんだから。
いくら世慣れた彼でも、異世界人は未知の存在だ。
警戒されたり、気味悪がられても仕方ない。
だけど。
頭では理解していても、寂しいのにはかわりなくて。
理不尽だと理解しつつ、彼に苛立ちが募ってしまう。
異世界人って告白した瞬間は、私のことを拒絶しなかったくせに…!
あなたがついて来いって言ってくれたから、一緒にいるんだよ!?
今さら後悔して突き放そうとしても、無駄なんだからね!?
……だいたいこっちだって、見ず知らずの男についていくなんて、怖いんだから。
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