157.否定はできても、他の案が出せるかと言えば別問題なのですが
「王宮学校」がこちらの世界に存在する学校とゲームの学校で異なり、その相違点がゲームをする人間に馴染みのある設定へと変更されているのなら、ここが「乙女ゲームの世界」なのではない。
乙女ゲーム【王宮学校恋物語】が、こちらの世界をなぞって作られたと考えているということになる。
だけど、そんなことあるはずない。
「うちの母は、普通の人間ですし、このゲームを作った前後に行方不明になったこともないです。2、3日くらいは出張で出かけることもありましたけど、それ以上の長期間、家を空けたことはないですよ。母がこちらの世界に来ていたということはないと思います」
このゲームが作られたのは10年前だから、もちろんお母さんの行動なんて細かく覚えていない。
でも私がこちらの世界に来て、1か月。
いまだ元の世界に帰れていないことを考えると、こちらの世界に来ちゃった人間が自然に元の世界に戻れるという可能性は低い。
誰かに助けてもらって元の世界に戻ったなら、多少なりとも異世界から来た人間のことが噂されていそうなものだ。
フィリップ様は、そういうことお詳しそうだし、情報も集まってきそうな立場だ。
でも異世界の人間が来たなんてことは、伝説になるほど昔にしかないっておっしゃっていた。
お母さんがこっちの世界に来て、見聞きしたことでゲームをつくったなんて仮説はありえないはずだ。
自信をもって否定すると、ローズマリー様は「でもっ!」と声をあらげた。
「偶然にしては、一致しすぎているもの!この国の名前も、攻略対象の名前や年齢もすべてゲームと一致しているのよ?ただの偶然なんて、思えない……!おまけに【伊坂美咲】まで、こっちの世界にやってきて、レイと婚約するなんて……。時間をずらして、ゲームの内容が始まっているのかもしれないじゃない……!」
ひといきに叫ぶと、ローズマリー様はスカートをぎゅっと握って俯く。
「確かに、偶然にしては一致しすぎていますよね……」
ローズマリー様の言うことにも一理ある。
ローズマリー様の言っていることが本当なら、お母さんがつくったゲームの登場人物とこちらの世界の人間の名前なんかが数人分すべて一致しているというのは、偶然にしてはできすぎている。
学習内容が違うとはいえ「王宮学校」もあるし、彼らが全員通っていたというのも一致している。
年代にずれはあっても【伊坂美咲】がこちらの世界に来るということまで一致しているなら、ローズマリー様がなんらかの運命を感じて恐れるのも無理はないと思う。
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