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154.信用してくださいとは言えませんが

「……ほんとに、なにも知らないの?」


へこたれて俯いていると、ローズマリー様がおそるおそると声をかけてくる。

うん、私、怖くないよー?


「ええ。残念ながら」


自分でも思い出そうと記憶をあさってみたけど、ぜんぜん思い出せない。

あのゲームの内容をちょっとでも覚えていれば、ローズマリー様にきかなくてもわかってラクなんだけどな。

この人なだめて話を聞き出すの、大変そうだもん。


ただひとつ察せるのは、ローズマリー様の反応からして、オットー様が攻略対象なんだろうなってことくらい。

まぁこれを口にすると、また大騒ぎされそうだから言わないけどね。


神妙にうなずくと、ローズマリー様は頭を抱えて考え込んだ。


「本当なの?信じていいの?……って聞いたら、本当って言われるだけで無意味よね?でもでも、信じていいかわからないのにこっちの手の内を明かすなんて危険すぎる?どうしよう?どうしたらいいの?」


ローズマリー様、考えがすべて声に出てます。

信じていいのと訊かれれば、とりあえず信じてくださいと応えるよ?

でも、本当に信用できるかと問われれば、本音のところは「お答えできません」です。

私の害になるなら、ローズマリー様の利なんて無視させていただくしかないので。


すすんで悪人になる気はないけど、善人に徹してこっちが痛い目を見る気もない。

頭を抱えて悩むローズマリー様を見ながら、私も考え込んだ。


お互いにお互いの反応を探って進めない私とローズマリー様の沈黙を破ったのは、ローズマリー様とラブラブな旦那様だった。


「ローズマリー。信じるしかないなら、話せばいいよ。なにがあっても、君のことは、俺がまもってあげる」


「オットー……」


はい、そこ見つめあわない。

なんだこの夫婦。ベタベタしないと話ができないのか。

できないんですね、わかります。

だってローズマリー様ってば、オットー様に抱きしめてもらいながら、話を始めるんだもん!


「噂で聞いたの。レイに婚約者ができたって。だから私たち、ここに来るのを楽しみにしていたわ。レイのことお祝いして、うんとからかってやろうって。……でも、あなたがレイの婚約者なんでしょ?」


話を進めてくれるのはありがいけど、その膝抱っこ体勢はどうにかならないのですか。

うろんな目つきになっているのを自覚しつつ、私はうなずく。


「ええ」


それは表向きの設定であり、真実に近い嘘だった。

私は異世界人で、いつかは日本に帰る。

レイの恋人なのも期間限定で、婚約者だなんて嘘でしかない。

だけど表向きは私はレイの「病弱な婚約者」だ。

ローズマリー様たちにも、その設定でお会いする予定だった。

だから私は、ローズマリー様の言葉に躊躇なくうなずく。


ローズマリー様は身震いして、私を見つめる。

オットー様がローズマリー様の肩を撫でて、促した。


「レイモンド・ブロッケンシュタイン。この名前を聞いた時、なにも思い出さなかった?」


「何も。というか、もともと知らないんですってば!」


信用ないなぁ。

読んでくださり、ありがとうございます。

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