142.なぜか美少女に敵視されていますが
この1か月でこちらの世界にずいぶん馴染んだとはいえ、やっぱり「まさか」という出来事ってまだまだある。
だからこの時、私はローズマリー様が他人の思考をよめる「さとり」体質の持ち主なのではと本気で焦った。
思わずレイの背中に頭をひっこめて、かくれる。
姿を隠したからって思考を読まれないかはわからないけれど、彼女と目を合わせているのは危険だって思ったんだ。
だけど、ローズマリー様は、私の名前を呼んだ。
「まさか……、あなた、美咲?美咲って言った?まさかまさか、あなたが伊坂美咲なのっ!?」
え?あれ?……私、まだ名前を名乗っていないよね?
さっきレイが下の名前だけ読んでいたけど、なんでローズマリー様、私のフルネーム知っているの?
もしかして、本当に脳内読まれている?
私はそっとレイの背中の後ろから顔をのぞかせ、ローズマリー様の様子をうかがう。
やばい、あれ、普通じゃない。
ローズマリー様は、なぜか今にも倒れそうだった。
顔からは血の気がひいて、白いというより青い。
手や足は離れて見ていても明らかにがくがく震えている。
涙目で、オットー様の腕にぎゅうぎゅうと抱き付いている様子は、すさまじくかわいいけど、かわいそうだ。
だけど、なんで?
なんでローズマリー様、そんなに怯えているの?
私はそぉっと背伸びして、レイの耳元で小声で訊いた。
「ねぇ、レイ。この世界って、他人の考えを読める人もいるの?」
「は?いや、いねーけど」
……だよね。
ローズマリー様が他人の脳内を勝手にのぞける能力があるから私の名前を知っていたって仮説は、これでなくなった。
だいたいそれだと、ローズマリー様があんなに怯えている意味はわからないしね。
私の思考はちょっとアレだけど、あそこまで怯えられるものじゃないはず。
ということは、どういうことだ。
数秒考えてみたけど、ぜんぜんわからない。
その間もローズマリー様はオットー様に抱き付いたまま、
「こ、答えなさいよ!ごまかそうとしたって、そうはいかないんですからね!」
なんて叫んでいる。
しかし意味もわからず睨まれて難癖つけられている今の状況って普通なら苛立つものなのに、ローズマリー様のかわいさですべて帳消しになってる。
大きな緑の目が涙で潤んで、震えているからかみっかみで怒鳴ってくる美少女…。
私が男だったら、恋に落ちてしまいそうだ。
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