141.猫は物理でかぶるものではありませんが
真顔で鳥肌不回避なセリフを、アーノルド様がおっしゃる。
ん?これ、笑うところ?笑ったほうがいいの?
でもよもやまさかとは思うけど、アーノルド様が本気なら、笑うとか失礼か…。
初対面のお客さまに失礼なことになる可能性があるのなら、冗談のわからない子だと思われたほうがマシか。
私は慣れ親しんだ曖昧な笑みを浮かべる。
見よ、この日本人の得意技を!
しかしラテンな外見のアーノルド様は、中身もラテンだった。
曖昧スマイルという私の必殺技は、アーノルド様には承諾と同義らしい。
アーノルド様はごく自然な仕草で私の手をとると、指先にキスをしようとし、レイに突き飛ばされる。
「美咲にさわんな!」
肩をつかまれて、レイの後ろにかばわれる。
レイは激怒してアーノルド様を睨んでいるようだ。
けど、それ、逆効果なんじゃないかなー。
「おやおや」
アーノルド様はくすくす笑いながら、胸に手をおき、わざとらしくため息をつく。
「私はずいぶん友人に信用されていないようだね。ちょっとした挨拶じゃないか」
「ってめーのことをよく知っているからよぉ、信用できねーんだよな!?あとなにが『私』だよ!猫かぶってんじゃねーよ、きめぇ」
レイは吐き捨てるように言う。
けど本気で怒っているっていうのとは、違う。
まぁ、仲良しなんだろうなぁって感じ。
「猫をかぶった俺もかわいいだろうけどね。これは単に場に合わせているだけだよ。なぁ、オットー?」
対するアーノルド様も、鼻で笑って応戦しながら、すごく楽しそうだ。
ローズマリー様といちゃいちゃするのに忙しそうで、レイたちのことが目に入ってなかったっぽいオットー様まで巻き込んでいく。
オットー様は案の定、ほとんど話を聞いていなかったようで、きょとんとして、
「んー?猫?かぶるの?……ローズマリーが猫をかぶったら、かわいいだろうなぁ。今度かぶる?」
「オットー。明らかに意味が違うでしょ。あなた私に猫型の帽子とかかぶせようと思っていない?……ま、まぁ、オットーが見たいっていうなら、猫を頭にのせてあげてもいいのよ」
お、おう。正統派ツンデレですね……!
一瞬ネコミミなローズマリー様を妄想して、レイの背中から顔を出してしまった。
ローズマリー様、吊り上がり気味の大きな目をしていらっしゃるから、ネコミミお似合いだと思います…!
頭に猫をのせるっていうのも、ありだと思います!
そっと視線を送ると、頬を赤くしてデレているローズマリー様と一瞬目があった。
自分のデレが恥ずかしいんですね、だからオットー様と視線が合わせられないんですね!
あぁご夫婦なのにこのいちゃいちゃっぷり。
若い女の子が既婚者で幸せそうにしているという事実にちょっとへこみつつ、だけど少女マンガ・小説好きの性として、萌えずにはいられない。
美男美女だしね!
などと脳内を読まれたらどんびきされそうなことを考えていると、私と目を合わせたローズマリー様の顔色がすっと蒼くなる。
え?なに?
まさか脳内をほんとうに読まれたとかじゃないよね……?
読んでくださり、ありがとうございます。
台風がたいへんなことになっていますが、皆様おきをつけください。




