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132/162

132.身元があかせないって、心細いものですが

「そうですね。それはわかりますけど」


私は、しぶしぶうなずいた。

するとレイはちょっと安堵したようで、へにゃりと笑い、


「その点、俺の婚約者を俺が身元を保証するって言えばよー、まぁ確実につっこまれねーだろうよ。自領の領主の身内が、自分の婚約者の身元を保証しているんだぜ?疑うなんて口にだそうものなら、相手によっては不敬罪で処罰モノだ」


「そうなんですか?」


「あぁ。ま、実際に実行するかどうかは別だし、俺はそんなことで不敬罪になんてしねーけどよ。向こうにしてみれば、心理的にハードル高いラインなんだよ。……で、だ。俺が美咲のことを婚約者だって紹介したのには、納得いったかよ?」


どうだ?ここまで噛み砕いて説明すれば、もう俺の言うことに意義をとなえねーよな?なんてそっくりかえって言われても…。


「そこまでは仕方ないかなって思いましたけど。でも、実際に私と結婚なんて考えていなかったでしょう?なのに、どうして噂も否定しなかったんですか?」


街の門に入るとき、レイが明言したのは「ブロッケンシュタイン家ゆかりになる予定の娘」ってだけだ。

その後の会話を加味すると、確実に婚約者って思わせてたけど、でもレイ自身が「結婚相手」とか「婚約者」とか名言していなかったなら、後で軍部に否定の連絡をしたり、なんとか結婚の話は否定しておくべきじゃないんだろうか。

それをしなかったのは、つまり、私を帰す気がないってことだったんじゃないの?

でも初めてこの世界に来た時の夜、レイは私と結婚する気はないって言ってたのに?


いろいろ思い出して、疑惑が胸にうかんで、レイを見る目がますます冷たくなる。

レイは「いや、だからよー」と言いづらそうにつづけた。


「後で、お前は死んだことにしようと思っていたんだよ」


「…は?私を死んだことにって、まさか」


「お前を殺そうとしていたとかじゃねーぞ?」


「……それは、まぁ信じていますが」


信じていても、つい考えちゃうことってあるよねー。

続けようとした言葉をレイに先に否定されて、私はしれっとした顔で「信じてる」なんてのたまってみた。


「じゃぁ、どういうことだったんです?」


「だからよー、筋書はこうなるはずだったんだよ。俺は遠いところから婚約者を連れて帰ってきた、だけど長い旅のせいで体が弱っていた彼女は、こちらの国になじむまもなく病を得て死亡、ってな。で、まぁ実際には、お前は元の世界に戻っているってなればいいと思ったんだよ」


「元の世界に戻れそうなんてなかったのに…」


「まぁ、元の世界に戻れそうになければ、お前の希望を聞いて、ここで生きれるようにするつもりだったよ。あそこの門兵たちにしても、一度あったきりの女のことだ。髪形や服装で雰囲気を変えて、俺と美咲が『俺の婚約者』とは別人だと言い張れば、押し通せそうだろ?」


「表向きレイの婚約者は死亡ってことにして、ですね?」


「納得したかよ?」


「ええ、まぁ」


私は得心がいって、うなずいた。

だけどなんでか心が晴れない。

むしろさっきより、心はもやもやしているような。


納得したって言いつつ、なんだかレイに苛立ちを感じていると、ダイアモンド様がケラケラ笑いながら口をはさんだ。


「美咲、死にそうなくらい病弱設定になるところだったんだー。じゃぁさ、レイ。もしその病気で枕があがらないって噂たててさぁ、もし途中で美咲がレイと結婚したいって言いだしたら、どうする気だったの?」


読んでくださり、ありがとうございます。


またお話が、なかなか進まないです…。

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