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13.泣き落としの真っ最中ですが

本日、2度目の更新です。

ええ、まぁ、そうでしょうね。

私としては、赤い月なんてもののほうが不思議だけど。


けれど、男は顎に指をあててすこし考え込んだと思うと、「だが」と切り出した。


「これってよ、異国じゃねえのか?確かに俺が見たことのねぇもんばっかりだし、この書物も風変りなもんだけどよー。異世界ってのは、なぁ」


ガイドブックで紹介されているものにひどく動揺していたくせに、男は案外冷静に言う。

なので、私も冷静に、私がこの世界を異世界だと判断した理由を告げた。


「私からすると、こちらの世界のほうが不思議なんです。まず、私のいた世界では、赤い月なんてありません。月は夜、暗い時に星とともに白くあわく光るものです。こんなふうに、昼間のように世界を明るく照らすものではないんです。真っ赤な月なんて見たことがありません」


よどみなく話しながらも、私は男の反応をうかがう。

男の態度に嫌悪や恐怖が混じるようなら、彼に頼ろうという作戦はだめになる。


やっぱりほんとのことを打ち明けるのはやめて、身寄りのない娘のふりをしたほうがよかったかな。

だけど、私にはなにも知らないまま、異世界で上手に生きていく自信なんてない。

頼れそうな相手を全力で頼って、相手の庇護を得る。

逃げられそうなら土下座でも泣き落としでも、なんだってしてやる。

幸いこの人、情にあつそうだから、捨て身の作戦がききそうだしね。


……私って、けっこうひどいヤツ?

だけど、こっちだって緊急事態なんだし!

見逃してください!


私はどこかで見ているかもしれない神様的なものに、こっそり謝罪しつつ、男に話し続けた。


「それに、魔獣みたいなものもいません。あなたが持っていらしたような、光る剣もないんです……」


話すうち、私の語尾は震え、目には涙がうかんできた。

しめしめ、これで彼の同情をひける…。

とはいえ、涙も震えも本物だった。


「ここがどこか、なぜ私がこんなところにいるかわからないんです…!ちょっと前までは、私は私の世界にいました。いまお渡しした本の場所に、遊びにいこうと思っていたんです。なのに、なぜか気づいたらここにいて、獣に襲われかけていて…」


目にうかぶ涙を、指で拭いながら、言葉をつむぐ。

やばい、このままじゃさっきみたいに、マスカラで顔がぐちゃぐちゃになる。

そう思っているのに、涙はとまらない。

なんでだ。さっきあんなに泣いたのにな。


「獣に襲われるなんて、私の世界じゃありえない。そんなことが私の身におこるなんて、考えたこともなかったのに……」


言いながら、とうとう私の足元は力がぬけ、その場に座り込んでしまった。

私は膝に顔を押し付け、ぐちゃぐちゃになっているだろう顔を隠す。


なんていうかさ、自分で思ってるよりショックだったんだろうなー。

いい年してこんなふうに人前で泣くとかないわーと思っているのに、体の震えも、涙もとまらない。


「家に、帰りたい!元の世界に帰りたいんです……!」


とうとうさっきから渦巻いていたいちばんの願望が、口から飛び出る。

こんなこと、この人にいってもしょうがないだろうけど。

なにより、そんなことはできないって否定されたり、嘲笑たりしたら耐えられないと思って、言わなかったのに。

帰りたい。

その言葉は、口にだしたとたん、儚く消えそうだった。

読んでくださり、ありがとうございます。


ちょっとだけシリアス回。

次回は通常運転に戻ります。

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