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129.お付き合いなんてはじめちゃいましたが

「美咲、サローネ好きだよな」


「うん。お肉やわらかいし、ジューシーだし。このちょっと辛い味付けもおいしいよ」


鶏肉の小悪魔風っぽい味だと思う。

小さく切った鶏肉を咀嚼しながら、じっくり味わう。

うん、美味美味。


「一か月か……」


おや。

わざと話題を食事にそらせたのかと思ったのに、レイはまた私が来てからの日数を呟いた。


「一か月だねぇ」


調子をあわせてしみじみ言うと、レイはなんだかすごく優しい目で私を見て、笑う。


「美咲、こっちの生活にすっかり慣れたよなー」


「あー、うん。いろいろねぇ」


レイと目を見交わし、二人してくすくす笑う。


この一か月、いろんなことがあった。

物心ついてからいちばんの激動の1か月だったもんな。


自分的にいちばん大きかったのは、もちろんこちらの世界に来たことだけど、レイとちゃんと付き合い始めたっていうのも、私の人生ではかなり大きなトピックだったりする。


初めはね、もうすぐ私が元の世界に戻るってことで、最初は付き合うっていう話もなしにしようって二人で決めた。

だけどお互いに相手の傍にいたくて、でも付き合うのはなしになったからってもだもだしていたら、ダイアモンド様をはじめとするお屋敷の方々が猛烈に後押しをしてくれた。


ダイアモンド様には、ほんといっぱい背中を押す言葉をもらったんだよ。


「一緒にいたくて、一緒にいられるのに、一緒にいないなんて馬鹿じゃないの」とか、

「関係が深くなればなるほど別れがつらくなる?別れなんて、どんな関係でも、いつかは絶対に来るのに?辛くなるのが嫌だからって、今の幸せをあきらめるんだ?ふーん?」とか。


「だいたい自分の好きな人が自分を好きになってくれるとか、けっこう奇跡だろ…」って遠い目で言われた時は、本気で申し訳なくなったっけ。


ダイアモンド様はあの日私が見抜いた通りフィリップ様が大好きなんだけど、フィリップ様からの扱いは完全に孫か子ども扱いだもんね。

フィリップ様、レイのことはいちおう大人として扱っているのに、ダイアモンド様のことは徹頭徹尾子ども扱いなんだ。

ダイアモンド様は、ご自身がフィリップ様の補助的なお仕事をしているからだろうかって推測していらしたけど、フィリップ様のお気持ちはよくわからない。

500歳の人からすると、たかが二十数年生きただけのダイアモンド様なんて、ほんとうに子どもにしか見えないのかもしれないと思うけど、さすがにそんなひどいことはダイアモンド様にはいえない。

前途多難な恋をしているダイアモンド様からすれば、私たちの悩みは贅沢にうつっているらしい。


私から見れば、ずっと同じ世界にいられるダイアモンド様の恋のほうがよほどイージーモードだと思うんだけど、それ言うと「じゃぁ帰るのやめればいいじゃん」って言われるしなー。

読んでくださり、ありがとうございます。

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