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128/162

128.一か月なんていつもはあっという間なのですが

一気に一か月後に飛びます。

聞き覚えのある鳥の声が、窓の外から聞こえる。

その声につられるように窓の外を見ると、鳥の姿は見えなかったけれど、うららかな春の陽が目にまぶしい。

薄青い空の色、生まれたての緑の色。

いつの間にか、世界はすっかり春だ。


私がこの世界に来てから、1か月がたつ。

1か月なんて、大人になってからはあっという間だった。

特に25歳を過ぎてからは、加速度的に過ぎていく気がしていた。

周囲は変わっていくのに、私だけは以前と同じことの繰り返し。

結婚もせず、子どもも生まず、仕事も難しい仕事を任されることもなく、部下なんてもちろんいなくて。

ただ、若さだけが消耗し、今までの自分がただ若い女だというだけで、どんなに恵まれた立場にいたのかを思い知らされるためだけに時間は過ぎていくようだった。


だけど、この一か月は違う。


まだまだこの世界に慣れたとは言い難いけれど、私にとっては謎でいっぱいのこの世界で、私は少しずついろんなことを学び、この世界に居場所を得ていた。


……それが、いいことなのか悪いことなのか、今でも判断がつかないのだけど。


「美咲?窓の外に何かあるのか?」


私がぼんやりと窓の外を見つめていると、レイが不思議そうに見る。

私はお茶のカップをいったんテーブルに戻し、


「ううん。なんでもないの。ただすっかり季節は春なんだなぁと思って」


「ああ」


レイは私が考えていることがわかったのだろう。

一緒に窓の外へと視線を向け、ため息をついた。


「美咲がこっちに来てから、もう1か月か」


「……うん」


「フィー様は、まだ仕事のお時間がかかるってよ」


「みたいだね。……仕方ないよね、大切なお仕事だもん」


そう、フィリップ様とダイアモンド様の「お仕事」はまだまだお時間がかかるらしい。

私が元の世界に帰る方法は、いまだ謎のままだ。

フィリップ様たちのお仕事がいつ終わるかも、謎のまま。


フィリップ様たちはお忙しそうにあちこち出向かれたり、屋敷で調べものをしていらっしゃる。

いっそ私もフィリップ様たちのお仕事を手伝って、さっさと私の帰り方を調べてほしいって思うんだけど、フィリップ様のお仕事は極秘でこそないものの、あまり他人に手伝わせてよい内容ではないそうで。


私はといえば、レイに頼まれた日本の教育についての記憶を書類に書くくらいしかしていない。

後は、こうしてレイと食事をしたりくらいしかすることがなかったりする。


食事や休憩は、ほとんど毎日レイと二人でしている。

今日のお昼ご飯はグレイズという蕪に似た野菜のあっさりしたスープ。

それにサローネという鳥の香草焼き。

淡白なお肉にたっぷりの香辛料と香草の味がしっかりしみこんでいて、すごくおいしい。

添えられた焼き野菜はほとんど味付けがされていないけれど、野菜本来の味が濃いので、これはこれでおいしいな。


読んでくださり、ありがとうございます。


今まで時間通りかっちり書いてきたのですが、

話があまりにも進まないので、一気に一か月後まで飛ばしました。


現実世界では寒い季節から書き始めたのに、もう春も終わり、梅雨になりそうです。

これだけ続けられているっていうことだけでも、自分では快挙です。


お付き合いいただいている皆様のおかげです。

ありがとうございます。

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