126.常識は世界によって違うとわかっていますが
「数か月?フィー様、そんなに時間がかかるって言ってたのかよ?」
「え?…いえ。大変そうなお仕事みたいでしたので、それくらいの日がかかるのかと思っていたのですが」
「俺はせいぜい数週間だと思ってたぜー」
私たちは顔を見合わせて、苦笑いを浮かべた。
「後でフィー様にちゃんと確認しておくな」
「ん。お願いします」
私はこくんとうなずいて言いながら、自分はほんとうはどちらを願っているんだろうと思う。
ここにいられるのが、あと数週間なのか数か月なのか。
長い間ここにいたいのか、はやく帰りたいのか。
……やめよう。
考えても、仕方がない。
その決定はフィリップ様がなさることで、私にはどうしようもないんだから。
「ところでよー」
「はい?」
レイは私の前の椅子に座り、改まった表情で言う。
「俺はよー、美咲は偶然この世界にきちまったいわばこの世界の『客人』だと思ってる。だから、この世界の住人である俺が美咲をもてなすのは当たり前のことだ。俺と美咲の関係がどうなろうと、な?」
「ありがとうございます」
真剣な表情で言うレイは、きっと私が彼との恋を拒絶してもこのお屋敷でお世話になることを重荷に思わないよう気遣ってくれているのだろう。
その心遣いが嬉しいと思わなくちゃいけないはずなのに、私の心は不満がうずく。
お前は俺のものだって、お前を手放す気なんてないって言ってほしい。
言われたら困るし怒るくせに、勝手なことばかり考えてしまう。
汚れた本音を笑顔で隠して、頭をさげる。
レイは私の頭をぽんぽんと軽くたたき、困ったように笑って言う。
「それ、念頭において聞いてくれよ?で、そのうえで相談なんだけどよ。美咲がこの家にただ世話になるのは気が重いって言うならよー、お前の世界の情報を教えてくれねーか?」
「私の世界の…情報?」
「おぅ。昨日の夜、お前の世界の教育についていろいろ教えてくれただろ?ああいうこと、もっと知りてーんだよ。もちろん、嫌なら断ってくれていいんだぜ?」
「昨日もお話したように、私もそんなに詳しくないのですが、それでもいいのでしたら、いくらでもお話しますが……。本当にうろ覚えの知識しかありませんけど、いいですか?」
「おー。うろ覚えでもなんでも、お前の世界の常識は、俺にとっては驚くようなことばっかだからよ」
レイは知らず知らずなんだろうけど、ぐっと手を握りしめ、目をきらきらさせて語る。
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