122.口先だけの謝罪ではないのですが
レイって姿勢いいよな。
垂直に頭をさげているその背中が綺麗にまっすぐになっている。
やっぱり日々騎士として鍛錬しているたまものなのだろうか。
だけど、なぜレイが私に頭を下げるんだろう。
謝らなくちゃいけないのは、私のはずだ。
「え?」
わけがわからなくて、思わずレイをうろんな目でみてしまう。
「怒ってるよな…」
「怒っているけど」
ぽろりと本音がこぼれる。
私が悪かったのだと思ってはいるけれど、レイに怒っていないと言えば嘘になる。
だけどそれは、口にするつもりはなかった言葉だ。
だって、レイのほうから謝ってくれるなんて思ってもみなかったんだもの。
レイは顔をあげて、驚きのあまり無表情になってしまった私の顔を見て、苦い表情をうかべる。
「だよな…」
意気消沈するレイに、私のほうがうろたえてしまう。
「怒ってはいるけど…!だけど、レイが謝ることじゃないですよ。私が…、口を出すべきじゃなかったんです」
「美咲…」
「ごめんなさい!」
私は、さっきのレイよりももっと深く頭をさげて、言う。
「レイのお仕事のこととかわからないくせに、口を出して困らせてしまって…。ただレイにはもっと自分のことを大切にしてほしいって思っただけなんです。だけどあんなところで口にするべきじゃなかったです」
「いや、お前が悪いわけじゃな」
「私、ちょっと調子に乗っていたんだと思います。レイに優しくされて。……ここは私の世界じゃないのに、私の世界の理論をふりかざして、レイの考えを自分の考えに沿わせようとしていました」
「メアリー。ちょっと席を外してくれ」
頭を下げたまま、一気に言う。
するとレイはこわばった声音で、メアリーに声をかけたようだった。
すぐにメアリーの足音が聞こえ、ドアが開閉する。
またこの部屋にレイと二人きりだと思った瞬間、レイの手が私の肩に触れ、さげていた頭をもとに戻される。
「謝るのは、美咲じゃねーよ。俺だろ?…美咲に、心配してくれるのが嬉しいなんて言ったくせに、お前が心配してくれたのをはねつけてよー」
「怒ってないの?」
「怒ることじゃねーだろ。俺が、望んだことだ」
レイは私の髪を指ですかしながら、私の顔を覗き込んだ。
「また、泣いてたのか」
「ちょっとだけだもん」
「…お前を泣かせたくないって思ってるのによー。なにやってんだろうな、俺は」
レイは苦笑まじりに言うと、顔をぐっと近づけてくる。
その吐息すら感じるほど近くくて、心臓がどくりと跳ねる。
「なぁ」
「な、に…」
「キスしていいか?」
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