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119/162

119.手のかかる男なんて好きじゃなかったはずなのですが

「お帰りなさい、美咲さま」


結局、朝食の席は気まずいままに解散した。

部屋の前までレイに送ってもらったけど、ほとんど会話もなかった。


「ただいまです」


部屋では、メアリーが待機していてくれた。

よろよろと返すと、メアリーは「あら」と眉をあげる。


「お召替えなさらなかったのですか?」


そういえば、メアリーに元の世界からもってきたワンピースのほうがいいのではと勧められ、着替えようとおもっていたんだっけ。

その直後にレイが来て、バタバタしていたから忘れていた。


「ごめんなさい。あのままレイと一緒に朝食の席に向かったから」


「そんな。わたくしに謝られることではございません。そちらのドレスもお似合いです。……レイモンド様にいただいたドレスは、こちらに納めさせていただきました」


メアリーはそう言って、奥の扉を開けた。

そこは化粧室で、白いかわいい鏡台と小さなチェストがある。

圧巻なのは、クローゼットだ。

壁だと思っていた一面が扉のついたクローゼットだったようで、いまはその扉がすべて開け放たれ、そこにはたくさんのワンピースや帽子、靴が並んでいる。

そのうちのいくつかは、見覚えがあった。


「これ、さっきの」


「はい。レイモンド様が美咲様にとご用意された品です」


やわらかい色合いのワンピースが棚にずらりと並んでいる様子は、まるで一面のお花がさいているかのように華やかだった。


朝ごはんに行く前のレイとのやりとりを思い出して、また泣きそうになる。

ぐっとこみあげてくる涙をごまかしながら、クローゼットへと近づき、できるだけ嬉しそうな声をあげた。


「わぁ。さっきはゆっくり見られなかったけど、ほんとうにかわいい服がいっぱいありますね。どれもこれもかわいくて、目移りしそうです。……すこしゆっくり見たいので、ひとりにしていただけますか?」


「お召替えされるのでしたら、わたくしがお手伝いさせていただきます」


「ううん、ちょこちょこっと見てみるだけだから。着替えが必要な時は、またお願いします。私じゃ、どんな時にどれを着ていいのかわかりませんし。メアリーは、お茶を用意してくれますか?すこし喉が渇いてしまって」


あぁ、情けない。

メアリーに話しかけながら、クローゼットばかり見ている。

なんて不自然。


案の定メアリーは私が泣きそうだと気づいたみたいだった。

メアリーはまだ、私が朝食の席でしてしまったレイたちへの無礼を知らないんだと、その時悟った。

とはいえ、いまお茶の用意をしにキッチンへ行けば、そこで他の使用人たちに噂を聞くんだろうけど。


恥ずかしい。

でも自分がしてしまったこどた。


「では、すぐにご用意いたしますね」


メアリーはそっと頭をさげて、部屋を後にする。

数秒後、私はクローゼットの奥で泣いた。

読んでくださり、ありがとうございます。


朝食回が長かったので、朝食前の出来事がずっと昔のようです。

書いたのはほんとにだいぶん前ですね。

時が立つのがはやいです。

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