119.手のかかる男なんて好きじゃなかったはずなのですが
「お帰りなさい、美咲さま」
結局、朝食の席は気まずいままに解散した。
部屋の前までレイに送ってもらったけど、ほとんど会話もなかった。
「ただいまです」
部屋では、メアリーが待機していてくれた。
よろよろと返すと、メアリーは「あら」と眉をあげる。
「お召替えなさらなかったのですか?」
そういえば、メアリーに元の世界からもってきたワンピースのほうがいいのではと勧められ、着替えようとおもっていたんだっけ。
その直後にレイが来て、バタバタしていたから忘れていた。
「ごめんなさい。あのままレイと一緒に朝食の席に向かったから」
「そんな。わたくしに謝られることではございません。そちらのドレスもお似合いです。……レイモンド様にいただいたドレスは、こちらに納めさせていただきました」
メアリーはそう言って、奥の扉を開けた。
そこは化粧室で、白いかわいい鏡台と小さなチェストがある。
圧巻なのは、クローゼットだ。
壁だと思っていた一面が扉のついたクローゼットだったようで、いまはその扉がすべて開け放たれ、そこにはたくさんのワンピースや帽子、靴が並んでいる。
そのうちのいくつかは、見覚えがあった。
「これ、さっきの」
「はい。レイモンド様が美咲様にとご用意された品です」
やわらかい色合いのワンピースが棚にずらりと並んでいる様子は、まるで一面のお花がさいているかのように華やかだった。
朝ごはんに行く前のレイとのやりとりを思い出して、また泣きそうになる。
ぐっとこみあげてくる涙をごまかしながら、クローゼットへと近づき、できるだけ嬉しそうな声をあげた。
「わぁ。さっきはゆっくり見られなかったけど、ほんとうにかわいい服がいっぱいありますね。どれもこれもかわいくて、目移りしそうです。……すこしゆっくり見たいので、ひとりにしていただけますか?」
「お召替えされるのでしたら、わたくしがお手伝いさせていただきます」
「ううん、ちょこちょこっと見てみるだけだから。着替えが必要な時は、またお願いします。私じゃ、どんな時にどれを着ていいのかわかりませんし。メアリーは、お茶を用意してくれますか?すこし喉が渇いてしまって」
あぁ、情けない。
メアリーに話しかけながら、クローゼットばかり見ている。
なんて不自然。
案の定メアリーは私が泣きそうだと気づいたみたいだった。
メアリーはまだ、私が朝食の席でしてしまったレイたちへの無礼を知らないんだと、その時悟った。
とはいえ、いまお茶の用意をしにキッチンへ行けば、そこで他の使用人たちに噂を聞くんだろうけど。
恥ずかしい。
でも自分がしてしまったこどた。
「では、すぐにご用意いたしますね」
メアリーはそっと頭をさげて、部屋を後にする。
数秒後、私はクローゼットの奥で泣いた。
読んでくださり、ありがとうございます。
朝食回が長かったので、朝食前の出来事がずっと昔のようです。
書いたのはほんとにだいぶん前ですね。
時が立つのがはやいです。




