116.恐い考えばっかり頭をよぎっちゃいますが
「あー、えっと。すまねぇな?」
レイは私に謝ってくれるけど、謝ってほしいわけじゃない。
だってレイ、私が泣きそうだからなだめてくれているだけなんだろうなってのが明白なんだもん。
なんで私が泣きそうになっているかってこと、わかっていないよね。
「悪いなんて、思っていなくせに」
「その涙目で睨むのやめろ。卑怯だぞ」
へー。ふーん。そう。これ、弱いんだ?
言われて、ますます無言でレイを見る。
「あー…、っていうかよぉ。これ、相手も本気じゃねーから」
レイは参りましたとでもいうように、両手を頭の横で広げて、ひらひらと振る。
降参のポーズだ。
「どうゆうこと?」
「だからよー、これは警告なんだよ」
「毒をもったり、ケンカをふっかけたりすることが?」
「そうだよ。むこうだって、俺が癒し人だってのは知っているんだよ。あの程度の毒じゃ、俺にはきかねぇってことも承知の上で仕掛けてきているんだ」
「……で、でもっ」
「ケンカだって、同じなんだぜ?俺を相手に本気で痛めつけようとしているにしては、弱いやつばっかよこしやがる。本気で俺をつぶす気なら、もっと違うやり方を選ぶさ」
レイは、また私の頭をなでなでして言う。
なぁ、なんてフィリップ様に同意を求めて、二人でうんうんうなずく。
だけどさ。
「それが警告なら、要求が通らなければますます行動が悪化するんじゃないですか?」
警告っていうのは、なにか要求があって、その要求を通すためにすることだ。
この場合だと、魔石の人工生産をやめろってことだよね。
だけどそれは、この領の主要産業として推していることだから、やめられないはず。
さっきのレイとダイアモンド様のお話を聞いていても、魔石の人工生産をとめる気なんてぜんぜんなさそうだった。
だったら、物騒な「警告」を放ってきている相手の要求は通らないってことで。
今のところはレイの身を傷つけることのない「警告」も、いつかはもっとひどいことになるんじゃないの?
ううん、違う。気が付いて、私の体はがたがたと震えた。
「……ちがう、警告なんかじゃない」
「美咲?」
「だって、そうでしょ!?レイは魔石の人工生産の方法は公表しているんでしょ!?だったら、レイに魔石をつくるのをやめさせようとしても無駄じゃない!レイがやめたって、他の人がつくっちゃうんだから!」
レイだって、それくらいわかっているはずだ。
なのに警告だなんて言ったのは、私をなだめるためなんだと思った。
だけど軽いパニックを起こした私を、レイはため息をつきながら抱きしめた。
「はいはい、そこまでにしとけ」
「ふぇっ」
読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマも嬉しいです。




